2014春夏のMARKAWAREコレクションがデリバリーを開始しています。テーマに「HOW TO BUILD A CABIN(小屋の建て方)」をかかげ、アメリカのワークスタイルにコルヴュジェの「休暇小屋」から想起するコンフォート感をプラスしたコレクション。2013秋冬シーズンにおけるテーマだった「都会と自然の両方をもつ洋服とは」というコンセプトを引き続き追求するものです。
デザイナー石川俊介のもっか最大の関心である「小屋の建て方」というものを落とし込んだ洋服たちを、着こなしのあしらいで具体的な人物に落としこむのは、スタイリスト二村毅さん。ファッションに精通し、MARKAWAREのルックブックや、紙版のPARKING MAGAZINEの制作でも重要な役割を果たしている二村さんは、MARKAWAREの洋服をどう解釈しているのか。とても興味のあるところです。
そこで、無理は承知で「今季のルックを全部解説していただけないでしょうか?」とお願いしたところ、なんとご快諾のお返事! それでは、とばかりにコーディネートを解説していただきました。インタビューにはデザイナー石川も同席。以降3回に分けて今季のルック全解説をお届けします。
― お願いするにあたって悩んだところがあるんです。二村さんもお忙しいでしょうし、ポイントを絞って何体かだけ解説していただくのが良いのか、それともコーディネート全てについてコメントをいただくのが良いのかと。全てお伺いできたらこんなに嬉しいことはないんですが。
二村毅(以下二村):それはね、全部がいいと思いますよ。やりましょう!
― ありがとうございます! 2014春夏のMARKAWAREのアイテム全体に対して、どういった印象をお持ちですか?
二村:すごくわかりやすかったですよ。自分でなんでもやりましょう、家も建てましょうというDIYのディテールがあるなかで、コルビュジェの休暇小屋から派生してリゾート的なカラーリングがあったり、海を感じるような色合いだったり、柄モノというテクスチャーが融合している。しっかり表現されているなという印象でした。
― 洋服から人物像はすぐ浮かびましたか? この服はどのモデルに着せて、また違う服はこのモデルが似合いそう、というような。
二村:全然、思い浮かばなかったんですよね(笑)。でもこれはルックなので、ディーラーさん、買う人にもわかりやすいものがいいのではないかと考えました。つまりMARKAWARE的な人間像、繊細すぎず、男らしさもありつつ、markaとは違い少し大人の感じもある、そういう人物像をオーディションで絞り込んで決めました。
― 全ルックのコーディネートを通して、なにか特徴的なことはありますか?
二村:全体的に、過度なワークの味付けやリアリティを乗せ過ぎたりすることはやめよう、という意識がすごくありました。着る人を限定しすぎてしまうので。イメージとしてはわかりやすくなるので良いと思いますがワーカーの印象ばかりが強くなることは避けたかった。街で着るのにカッコ良い服として見えることも大事にしながら、石川さんからヒアリングしたテーマを総合し、最後は感覚でやっていったものが今回のルックです。なかでも今季は色がすごく綺麗ですよね。しかしポップな色ばかりが強調されてしまうとフレンチリゾートというところに転びすぎてしまう。そこにもう一つの要素である男らしさ、家を作るというところからのワークテイストという要素も入れながら色を見せていくということが根底にありましたね。
― 撮影は自然光ですよね。
二村:はい。MARKAWAREさんの服はライティングをして撮るよりも自然光のほうがいい色合いが出るんですよ。前回の秋冬も自然光でしたね。ライティングをすると凝った世界観を作っていくことはできるんですが、それは果たしていいのかなという想いもあるんです。天然素材に、自然の光が当たって出てくる色合いはとにかく美しいですし、今季の洋服には自然光が相応しいのではないかと思いました。
― では、早速ですが、ひとつひとつのコーディネートの解説をお願いします。
二村:今季目立つアイテムですね、ポケットのたくさん付いたショーツ。このショーツをデニムの上から履くと便利ですよと石川さんが言っていて、「確かに!」と納得できたのでショーツをメインにしたコーディネートを作りたいなと。どうせ穿くのであればデニムとは異質なカラーリングのほうがひきたつと考えて、赤色のショーツを選びました。さらに、中に穿いているジーンズに合わせて、上はワークテイストのシャンブレーシャツでまとめ、このショーツをワークっぽく着こなすひとつの方法というコーディネートを表現しています。先ほど過剰なワークの味付けは避けたいと言いましたが、ここでは分かりやすく少しだけ小物を足しています。ポケットがせっかくかわいかったので、これを使いたくて。
二村:コートの内側に着ているエプロンですね。これがすごくカッコイイなと思ったんですよ。ショップコートにエプロンをあわせている姿というのが、どこかのショップ店員さんとか、コーヒーを出している方とか、作業着の延長としてのファッションとして良いと思うんですよ。そのディテールを活かしながら、今シーズンのMARKAWAREらしい色を載せていったコーディネートです。コートの色も、それからエプロンの迷彩がすごく良いですね。見たことのないものを見たという感覚です。迷彩のもつナチュラル感やオーセンティックなムードに加えて、コルビュジェ的なアートのエッセンスもあって。
― このエプロンの迷彩柄はオリジナルで、手描きのものだそうですね。
石川:そうです。一版だけ普通に刷っているんです。これでいうと赤い部分だけ版を使い、あとの色は工場の方に手描きで載せてもらいました。というのも、全て手描きにしてしまうと規則性がなくなりすぎてしまうので。
二村:綺麗ですねえ。黄色や茶色といった色合いでブルゾンを着るならこう、というリアリティを表現しました。スウェットの上にこのブルゾンを着ることがワーク的な解釈というところでカッコイイなと思って、合わせてみたかったんです。この合わせはパッと思い浮かびました。パンツの折り返しの色もいいじゃないですか。あまり悩むことなくできたコーディネートですね。
二村:このパンツはカッコ良かった! ただ、シックなコーディネートのなかにこのビビッドな色使いの迷彩ショーツを、どう入れるかということで少し考え込みました。コートの色をベージュにするかネイビーかで迷ったんですが、石川さんと相談をしてネイビーにしました。ブルーのトーン&トーンの中に、ひとつだけ派手な色を差し込んでみるというのは今シーズンのMARKAWAREを着るにはいい試みなんじゃないかなと思います。
二村:今回は僕がどう考えてコーディネートしたかということをお話しさせていただいていますが、僕はデザイナーさんにもすごく相談するんです。ブランドとしてどう着せて欲しいかということをヒアリングして、形にしていくというスタイルです。でも、このスタイリングについては、けっこう頑なだったかもしれません。僕のワガママを通したな、という感覚があります。
― とてもシンプルなスタイリングですよね。
二村:夏場のリアルな着こなしですよね。自分がTシャツで出かけるとき、心配性なので「もし冷房が強かったら辛いかな」と考えて、カットソーを肩に巻くことが多いんです。シャツの肩にセーターを巻くと変にキマりすぎてしまうんですが、Tシャツにラフなカットソーを巻くという組み合わせは、ヌケがあっていいなと。今季は石川さんがこういうロゴのTシャツをけっこう作っていたので、どうやって使おうかなと考えたときに、僕のリアリティである肩からセーターを巻き、今シーズンっぽくショーツを穿いてみようという夏のスタイルが一番しっくりきたんですね。
― 去年は巻きものもストールがぐっと減って、みんなカットソーでしたね。
石川:デコラティブな巻きものは本当に減りましたね。
二村:そういう気分、飾り立てる気分ではなくなってしまったんでしょうね。
― 色合いも淡いブルーと淡いグリーン、ペールトーンの色調が基本。そこに白シャツと非常にクリーンですよね。
二村:そこはけっこう悩んだところでしたね。このグリーンのニットはギリギリのタイミングで上がってきたアイテムだったんですが、これは使い方が難しいぞと。でもプレーンな白シャツにあわせると洒落て見える。グリーンにエンジという組み合わせは僕が好きな色合わせのひとつなんです。赤に緑だとクリスマスっぽくて嫌いなんですけど、トーンが変わったときにこの2つの色合わせはすごく好きで。さらに、夏の熱い日を想定したコーディネートなのでサングラスもかけてみました。
二村:このジャケットがすごく新鮮に見えたんです。ラグランスリーブは珍しい。僕のなかでここ1年くらいラグランブームなんですよね。スポーティーでカジュアルに見えるところが面白くて。しかし、まさかテーラードジャケットでラグランを取りいれるとは。新鮮でしたね。そこで、このスポーティーなディテールが見えてきたほうがカッコいいなと思って、なるべくシンプルなコーディネートにすることを心がけました。同じトーンのパンツをあわせて、白シャツでプレーンかつストイックに。ジャケットのパワーが大きいですね。春先は僕もこういう格好をしたいです。
― 大きなポケットにはマチがついて、機能性も高いですよね。
二村:服、すごくいいですよね。守っていく部分と進化していく部分のバランスがすごく良いなと思いました。売れる、売れないは、僕はディーラーではないので分からないんですが、僕は好きです。
二村:ライダースジャケットもMARKAWAREでは毎シーズン展開している重要なアイテムですよね。そこで今季のライダースをどう着て欲しいかというところは石川さんとしっかり相談しました。結果、ギシギシでマッチョに着るのではなく柔らかく着たらどうでしょう、という提案にしました。生地もモールスキンで綺麗なのでエレガントですしね。
― 合わせたパンツはイージーパンツですか?
石川:後ろだけゴムで絞っているスラックスです。
二村:コーディネートをブルーのトーンでまとめましたが、パンツも濃色だと僕のなかではちょっとハードすぎるんですね。このパンツの色合いと柔らかいシルエットがライダースの重さを消してくれるんです。
>> 1回目はここまで。春夏シーズンらしいカラーアイテムの使い方や、都会的なワークスタイルの妙を解説していただきました。2回目では、軽やかなセットアップやストイックかつ洒落心に溢れたコーディネートがいくつも登場します。どうぞお楽しみに。
Composition : Tsuzumi Aoyama