MARKAWAREから提案するダウンベストについてお話しします。今季、このアイテムを製作する際に一つテーマがありました。それはダウンベストとしての機能性を確保しつつ、テーラードジャケットのような美しさを表現することです。
ジャケットの上にベストをオーバーレイする着こなしはここ数シーズンさまざまな場所や媒体でよく目にします。2008年以来MARKAWAREでは同素材のジャケットの上に重ねると一枚のダウンジャケットに見えるよう特別にデザインをしたダウンベストを展開してきました。今シーズンはそのダウンベストにさらに改良を加えました。ジャケットの上に重ねられ、しかもダウンベスト単体がジャケットのような雰囲気をもつようにリデザインしました。
素材はクラシカルなたたずまいを表現するために『HARRIS TWEED』を選びました。100年以上の歴史を持つ『HARRIS TWEED』の発祥はスコットランドの北部にある寒く風の強いハリス島とルイス島。その島民が自分達の上着にするために作っていたことがはじまりです。足踏みペダルのついた織り機で一反ずつ織りあげた生地は、風を通さない、暖かくて丈夫な仕上がりでした。しかし、厳しい自然条件から身を守るために強く打ち込まれた生地は硬く、着心地が良いとはとても言えない代物でした。また、ずっしりと重いという欠点もありました。
街着としては使い勝手の悪いこの生地ですが、鎧のように厚いことからアウトドアで狩猟を楽しむ貴族たちにとってはブッシュの小枝から肌を守るものとして評価される側面もありました。また、弱撥水性を保つ特性もあります。どんなウールでも紡いだ段階で原毛に油分が入っています。現在は紡績の段階で脱脂(油を抜く)をしますが『HARRIS TWEED』は昔ながら工程で織られている生地のため、この作業をしません。そのため織られた生地にも原毛に含まれる油が生地に残ります。この油分が水をはじき、弱撥水性を保つというわけです。
この特性からアウトドアやレジャーで着用されるカントリージャケットの生地に採用され、『HARRIS TWEED』の名前はイギリス全土に広がっていきます。着こむほどに柔らかく、肌馴染みよく変化していくことはもちろん。経年変化をすることで適度に油分が抜け、すこし乾いた生地感が独特なヴィンテージ感を生みます。父親が着ていた『HARRIS TWEED』のジャケット。その子供は大人の男の証として父親から受け継がれます。何十年着用しても褪せることのない耐久性は何世代にも渡り受け継がれるほど重宝されました。それは『確かな品質の証明』となり、1909年にはハリスツィード認定協会が発足。現在もその品質は守り続けられています。
そんな『HARRIS TWEED』ですが、いまやさまざまなバリエーションの生地が展開されています。色、柄もバリエーション豊富になりました。かつて板のように硬かった生地は、新品の洋服でも肌に馴染む柔らかいものもリリースされています。MARKAWAREでも、その中からチョークストライプと、ヘリンボーン織りの2種類の生地を採用しました。どちらも本来はスーツなどで使われる柄ですが、これをダウンベストに用いることで、本来カジュアルなアイテムがクラシックな雰囲気に変身するのです。
白いホーンボタンは、このダウンベストの一番のアクセントです。通常は20mmの大きさのボタンを使っていますが、今回のボタンは23mmのサイズを選んでいます。一般的にはクラシックな服では金属や同色のネイビーや黒ボタンが使われる傾向ですが、この白ボタンがほどよい抜け感を生んでいます。前シーズンまでは刻印もボタンの側面のみでしたが、今季は正面にもMARKAWAREの刻印を入れました。白いボタンがモダンなニュアンスをプラスするだけでなく、存在感のある白ボタンはコーディネイトのアクセントにもなるでしょう。
ポケットはスラッシュポケットの仕様にしました。収納性や保温性等の機能面を重視するのであればフラップポケットとハンドウォームポケットの2重構造にするのがベスト。しかし、それではクラシカルな印象が損なわれてしまうと思いました。テーラードジャケットのようなエレガントさを出すためにはスラッシュポケットが一番しっくりきます。ポケット内の裏地はフリース生地を使いました。ポケットに入れた手を、柔らかく、そして暖かく包みこむための配慮です。
肩周りのダウンの量はあえて少なめにしました。これはテーラードジャケットとレイヤードした時に肩周りにボリューム感が出すぎないようにするためです。バックスタイルのスタイリッシュさをそこなわず、美しいラインにするためのデザインです。アームホールもスリーブが綺麗にみえるようにゆとりを持たせました。実際にジャケットとレイヤードしたときに、その美しさを実感していただけるでしょう。
取り外しができるチンストラップ。首もとを閉じることで風の侵入を防ぎ、保温性をあげる効果があります。襟元に配したデザインにより、シンプルでありながらも一癖ある表情になったと思います。
カジュアルにもドレッシーにも、自然の中でも都会でも使えるスタイリッシュなダウンベスト。『HARRIS TWEED』ならではの風合いをお楽しみください。
Photo&Text: Yuji Saito