播州織の産地を見学に伺った季節は真夏でした。かなり大規模な工場であちこちの機械で高温の蒸気を使っているのですごく暑いんです。もちろん冷房なんてかけていられないので、みんなタンクトップ姿で汗だくです。昔は氷の柱を立てて少しでも涼をとるようにしていたそうですが、そういう氷屋さんもなくなってしまい、いまはひたすら暑さに耐えながら製品を作ってくださっているわけです。
色の調合のためコンピューター制御された最新の機械も導入していますが、光の当たり具合や生地の性質による発色の違いはどうしても熟練した人の目によるチェックが必要ということでした。
さて、染色の工場では、排水処理が大変です。排水は瀬戸内海に流しますが、そのために染料で汚れた水を浄化する設備が必要です。この設備のために工場と同じくらいの敷地が必要になるそうです。それくらいきっちりと浄化しなければ、瀬戸内海に流してよいレベルの水にならない。
つまり、この設備には巨額の費用がかかっており、これから新しい工場が作られることはまずないのではないかと。今の景気のなかでは新しく作っても回収するのに何年もかかってしまい採算があわないためです。しかしこういった工場がなくなってしまうと日本で一貫した物づくりはできなくなってしまうので、我々としても大事にしていかなければいけないところです。
熟練した職人さんの目、そしてしっかりした設備。これらを維持するためには、ここの産地で生まれる生地をきちんと洋服にしていくことが必要です。それはすなわち日本のものづくりを支えることでもあるのです。
Photo: Shunsuke Ishikawa
Text: Tsuzumi Aoyama