いわゆるスウェット、裏毛について。生地の裏側にループ状にした太番手の糸を一緒に編み込んだ天竺目の素材のことです。その生地について少し専門的な話を交えて書いてみたいと思います。
スウェットやTシャツなどに使う生地は丸編み機という筒状に生地を編む機械で編みます。周囲にぐるり編み針がついた機械を回転させて編み地を作っています。この筒状になっているというのは、生地の生産効率状も有効なのですが、洋服をつくるにあたっても非常に合理的です。すべての洋服は人間の体を包むように形作ることによって最終的には筒状になります。であれば最初から筒状になった生地を使えば縫う手間を省くことができます。また洋服の縫い目は生地が何枚も重なり、しっかりした縫い糸で縫うためどうしても固くなりごわついてしまいます。できれば縫い目(シーム)は無い方が着心地が良い。特に肌に近いところに着る下着類やスウェットなどは少しでもこのごわつき感を無くしたい。最初から筒状になっていればそれが適います。ということで、ビンテージのスウェットや多くのアメリカ製Teeシャツなどには脇接ぎがありません。この脇接ぎがないカットソーを「丸胴」と呼びます。
丸胴には問題もあります。まずはシルエットが自由にならない。脇下から裾リブ上までがまっすぐになってしまいます。もう一つはコストの問題。3サイズ作ろうと思えば3種類の寸法の違う編機を使用してそれぞれのサイズ専用の生地を作る必要があります。生地の経済ロットを満たそうと思うと、かなりの量の生地を作らないといけません。それで内も含めた多くのブランドはなるべく太い幅で編んだ生地を開反(筒状の生地をカットして平な生地にすること)して使っています。でも今シーズンはどうしても丸胴を使いたくて、丸胴にしました。今の抜け感のあるコーディネートには丸胴が必要でした。
同じ丸胴といっても種類があります。大きく分けて2種類の編み機があるのでどちらで作るか?1つ目はシンカー編機と呼ばれるより新しい編み機。1960年代半ばから普及したこの編機は数十本の糸を同時に高速で編んで行くことにより、それまでの機械に比べて10分の1以下へと時間短縮が行えるようになった機械です。もう一つは吊り編機。シンカー編機が普及する以前に使用されていた古い機械で、1本か2本の糸をゆっくりと編んで行きます。この2つの機械は織物の世界の革新織機と力織機の違いのようなものです。どちらが良いか?はそれぞれだと思いますが、僕は吊り編機が好きです(上の写真が吊り編機です)。編み地を自然に落とす吊り編機は生地にテンションをかけずに編むことができます。また裏糸にもテンションが少なくふっくら柔らかなふくらみ感のある生地が出来上がります。着て・洗ってを繰り返した後の風合いの良さは吊り編機で編んだものの方が良いと思っています。また、残っている機械台数と扱える職人さんの数の少なさから、吊り編みの方が希少性も高いです。吊り編みを量産できるのは日本のみだということで(先日アメリカの知人から聞いた話だと、アメリカで多くの吊り編機を集め始めている会社があるが、機械の整備がまだできていないのと職人がいないので今はまだ編めていないとのことでした)MARKAWAREの裏毛はすべて吊り編機を使用しています。
そしてその多くは和歌山市にあるカネキチ工業で編まれたものです。ここでは常に100台程度の吊り編機を稼働させ、さらにバックヤードにも同程度の数の編機をストックして、仕様に合わせて編機を交換しながら、いろいろなニーズに対応しています。
この髭針と呼ばれるドイツ製の針裏糸を掛け、その奥にあるシンカーと呼ばれる円形の部分で編み地を編みます。吊り編みでしかも丸胴。日本で物作りをしているからこそできる贅沢だと思います。
この生地に使用した糸について。裏毛は3種類の糸を使用して編むのですが、まず表糸。生地表面に見える天竺目の糸ですが、アメリカで栽培されたオーガニックコットンを使ったムラ糸です。同じ原料の落ち綿(紡績の際に残る綿)を混ぜでバルキー感を出した30番単糸です。中糸にはS(逆)撚りの30番糸。表と中の糸の撚りを逆にすることで生地の斜行(ねじれ)を少なくします。そして裏糸には10番の無撚糸を使用しています。
無撚糸とは、コットンをコーミング(櫛がけ)して繊維をそろえて、ほんの軽くねじったものに、撚糸した細い糸を軽く巻き付けて解れないようにした糸です。この糸がループ状になって体に触れるため、柔らかくふんわりとした肌触りが特徴の生地に仕上がっています。
こうして出来上がった丸胴オーガニック吊裏毛。僕も、最初に作ったサンプルのスウェットシャツを着ていますが最高の着心地です。着て・洗ってを繰り返したところ、新品の時よりプクプクとしたふくらみ感と柔らかさが増しています。オーガニックのムラ糸はアウターと擦れて細かなネップ(毛玉)ができ、ヴィンテージスウェットのような雰囲気が出ています。長く手放せない一着になりそうです。
明日は、縫製とデザインについてお伝えします。
Text & Photo : Shunsuke Ishikawa