PARKING

0

CLOSE

〈MARKAWARE〉、〈marka〉の2ブランドから生み出されるウエアには一点一点、物語が眠っています。
原料選びから紡績、製織、染色、縫製、プレス、加工に至るまで、それぞれのウエアが作られる背景や各過程を支える職人や工場、農園を紹介しながら、これから暮らしをともにする洋服により愛着を持っていただけるような情報を共有していくのが「PARKING MAGAZINE」。
アイテム1つずつに深い理解度を持って愛せる、好奇心を持った男性に贈るウェブマガジンです。

Vol.01 Karatsu Shirts Work Shop

Vol.01 唐津シャツ工房(前編)

March 15, 2018

素材作りから縫製、加工に至るまで、服にまつわるすべてのアプローチを日本国内で行うこと。これは2002年の創設時から掲げる、ブランドの信念である。
そんなメイド・イン・ジャパンにこだわったクオリティの高い洋服作りを、長きに渡り培われた技術を持って支える頼もしき職人や工房を紹介していくのが「FACTORIES」。第一回目は、物作りの伝統が息づく街、佐賀県唐津市を拠点に卓越した縫製技術で美しいシャツを仕立てる工房を訪ねた。

伝統文化と豊かな自然が育む
佐賀県唐津の物作り哲学

 

 新シーズンのアイテムが並び始めすっかり春の装いとなった「PARKING」で服を眺めていると、ふと1枚のシャツに目を奪われた。聞けば2017年に惜しまれながら閉鎖したスイスの名紡績工場「HERMANN BUHLER」が最後に生産したオーガニックスーピマのブロード生地を使用したシャツだという。その生地が持つ柔らかで品のある表情もさることながら、思わず見とれてしまった理由はラックにかけられたシャツの佇まいがあまりにも綺麗だったこと。一目見ただけでも仕立ての良さが感じられるそのシャツの美しさの秘密は、縫製の細やかな仕上げにある。布キワから3mmという信じられないほど極狭幅で縫われる折り伏せや手作業のかがり縫いでの縫い代処理など驚くほど丁寧な縫製こそが、生地やシルエットの美しさをより際立たせていた。そんなクオリティの高いメンズシャツ作りにおいてデザイナーの石川俊介さんが絶大なる信頼を寄せる工場がある。それが今回ここで紹介する「唐津シャツ工房」。
 佐賀県北西部に位置し、玄界灘に面した唐津市は海と山に囲まれた自然豊かな街。唐津湾に沿って4.5kmにも及ぶ松林道が広がる「虹の松原」や、唐津市内を一望できる「鏡山展望台」など自然を満喫できる名所も多いこの街で、真っ先に思い浮かぶものといえば焼き物。桃山時代に始まり400年余りの歴史を持つ唐津焼は他の産地と比べ技法や種類が多彩で、今も市内には約70もの窯元が点在している。多くの陶芸作家が唐津を拠点に技術を育むことで自ずと物作りの文化が土地に根付き、ここで培われた精神や生産背景は作陶以外の物作りにも大きな影響を与えた。その一つが縫製である。実は唐津市には縫製工場が多くあり、服づくりに携わる人たちの間では仕立ての街としても有名。そんな同市のなかで物作りする工場や物流が密集するエリアに「唐津シャツ工房」はある。代表を務めるのは18歳からシャツ縫製工場の門を叩き、この道40年となる力武正二さん。23年前に独立して自らの工房を作り、ちょうど1年前に今の場所に工房を移し、社名を「唐津シャツ工房」へと一新。その新工房へ訪れた際、まず最初に力武さんはその社名に込めた思いをこう話してくれた。
 「シャツ作りを通して唐津の物作りのよさやすばらしい環境をたくさんの人に広めたい。そういう思いから社名に唐津といれました。ここは自然豊かでどこも景色が気持ちよく、海の幸も山の幸も豊富で食べ物もおいしいし、福岡市からのアクセスもよく物流も便利。そして昔から陶芸が盛んだっただけに手先が器用な人も多く、実は物作りをする上でとても恵まれた場所なんです」。
 唐津という名前を背負って、クオリティの高い物作りをすることでこの土地の魅力までも発信しているという「唐津シャツ工房」。そんな高い志を持ちシャツ生産をするこの工房を力武さんの案内で覗かせていただくと、他の工場にはない独特な生産背景を目の当たりにすることに。

縫製未経験者の仕事ぶりが
シャツ作りの一番の鍵

 

 丁寧に縫製された仕立てのいいシャツを「PARKING」で見たときにイメージしたのは、老練の職人たちがミシンを踏み縫製作業をしている姿であった。だが、「唐津シャツ工房」の作業場に足を踏みいれるとそのイメージとは大きく違う風景が飛び込んできた。ミシンの運針やアイロンのスチーム音が心地よく鳴り響く、明るくクリーンな印象の工房には16人ほどのスタッフがいて、各々が持ち場につき黙々と自身の仕事をこなしている。そこで働くのはみんな女性でしかも若い人が多いことに驚いた。力武さんに勝手に思い描いていたイメージを話すと笑ってこう話してくれた。
 「うちで働く人たちはミシンを踏んだこともないような未経験者が多いんですよ。しかもみな工房からほど近い場所に暮らす女性たちなんです。ここでは特別な教育プログラムは設けておらず、彼女たちは先輩に習ってアイロン操作から始まり一つずつ与えられた仕事をこなしていくことで自然と技術を習得していったんです。自分も18歳から無知識でこの世界に飛び込みシャツ作りのノウハウを学んだ身なので、実体験も踏まえて未経験者でもいい仕事ができることになんら疑問はなかったんですね」。
 今は国内でも海外から研修生を招き生産を回している工場が多いなか、純粋に地元近隣の人たちを採用して1から技術を教え育てあげているのはとても貴重な存在である。さらに力武さんに未経験者を積極的に雇い育てている理由を聞くと、それこそが他のシャツ工場にはない「唐津シャツ工房」の強みになっていることに気づかされる。
 「実はこれまでほかの工場から研修でやってくる子を受け入れていたのですが、あまり長続きせずにやめてしまうことが多かったんです。その理由はうちが他の工場だと嫌がられるような仕様もできる限り受けるようにしていること。例えば1mm未満の幅でステッチを縫ってくださいというオーダーがあったとすれば、ほとんどの工場が断ってしまう仕様。だから経験者ならば誰もができないと思ってすぐに匙を投げてしまう。でも、未経験者は違うんです。下手に知識や固定概念がない分、1mm未満の幅というオーダーが来てもあまり偏見を持たず一生懸命に仕上げてくれる。実はその未経験者の作業に向かう素直な姿勢こそがシャツ生産の新しい技術やアイデアをもたらしてくれているんです。未経験者を1から育てることは教える方も、覚える方も大変だとは思うのですが、長い目でみればそれが「唐津シャツ工房」の大きな強みになることを今ひしひしと感じています。それに雇用環境の少ない地方でやりがいのある仕事を提供するという意味でも、未経験者の採用はすごく意義のあることだと思っています」。
 今や未経験から習得したとは思えないほどの卓越した縫製技術を持ったスタッフを何人も育て上げている力武さんは、彼女たちが仕事をしやすいように力を入れて製作しているものがある。それは何ページにも渡って縫製指示や工程の詳細がみっちりと書き込まれた特別な仕様書。
 「デザイナーさんからいただく指示書をもとに、たとえ知識がなくとも誰でも一目見れば作業を理解できるようないわゆる説明書を作ることが私の大きな役割の一つ。襟や袖、身頃など各パーツに細かく分けての縫製指示や、図での解説などこれほど細かい仕様書を作るのはここだけかもしれませんね。みんなはその説明通りに作業をこなしてくれるので、この仕様書が完璧に作れればもはやシャツは完成したといっても過言ではないくらい重要なんです」。

(後編へ続く)

唐津シャツ工房
同佐賀県にあるシャツ専門工場にて生産経験を積んだ力武正二さんが 1995年に独立して自身の工房をスタート。 2017年に会社名を現在の「唐津シャツ工房」に変更し、工場も移転した。きれいな仕上げのメンズカジュアルシャツの生産を得意とし、小ロット生産やデザインの理解度などフレキシブルな生産背景と細やかな縫製で多くのブランドから絶大な支持を受けている。

Photo : Tetsuo Kashiwada
Text : Yuichi Samejima

CATEGORY:
Share:
facebook
twitter

素材作りから縫製、加工に至るまで、服にまつわるすべてのアプローチを日本国内で行うこと。これは2002年の創設時から掲げる、ブランドの信念である。
そんなメイド・イン・ジャパンにこだわったクオリティの高い洋服作りを、長きに渡り培われた技術を持って支える頼もしき職人や工房を紹介していくのが「FACTORIES」。第一回目は、物作りの伝統が息づく街、佐賀県唐津市を拠点に卓越した縫製技術で美しいシャツを仕立てる工房を訪ねた。

伝統文化と豊かな自然が育む
佐賀県唐津の物作り哲学

 

 新シーズンのアイテムが並び始めすっかり春の装いとなった「PARKING」で服を眺めていると、ふと1枚のシャツに目を奪われた。聞けば2017年に惜しまれながら閉鎖したスイスの名紡績工場「HERMANN BUHLER」が最後に生産したオーガニックスーピマのブロード生地を使用したシャツだという。その生地が持つ柔らかで品のある表情もさることながら、思わず見とれてしまった理由はラックにかけられたシャツの佇まいがあまりにも綺麗だったこと。一目見ただけでも仕立ての良さが感じられるそのシャツの美しさの秘密は、縫製の細やかな仕上げにある。布キワから3mmという信じられないほど極狭幅で縫われる折り伏せや手作業のかがり縫いでの縫い代処理など驚くほど丁寧な縫製こそが、生地やシルエットの美しさをより際立たせていた。そんなクオリティの高いメンズシャツ作りにおいてデザイナーの石川俊介さんが絶大なる信頼を寄せる工場がある。それが今回ここで紹介する「唐津シャツ工房」。
 佐賀県北西部に位置し、玄界灘に面した唐津市は海と山に囲まれた自然豊かな街。唐津湾に沿って4.5kmにも及ぶ松林道が広がる「虹の松原」や、唐津市内を一望できる「鏡山展望台」など自然を満喫できる名所も多いこの街で、真っ先に思い浮かぶものといえば焼き物。桃山時代に始まり400年余りの歴史を持つ唐津焼は他の産地と比べ技法や種類が多彩で、今も市内には約70もの窯元が点在している。多くの陶芸作家が唐津を拠点に技術を育むことで自ずと物作りの文化が土地に根付き、ここで培われた精神や生産背景は作陶以外の物作りにも大きな影響を与えた。その一つが縫製である。実は唐津市には縫製工場が多くあり、服づくりに携わる人たちの間では仕立ての街としても有名。そんな同市のなかで物作りする工場や物流が密集するエリアに「唐津シャツ工房」はある。代表を務めるのは18歳からシャツ縫製工場の門を叩き、この道40年となる力武正二さん。23年前に独立して自らの工房を作り、ちょうど1年前に今の場所に工房を移し、社名を「唐津シャツ工房」へと一新。その新工房へ訪れた際、まず最初に力武さんはその社名に込めた思いをこう話してくれた。
 「シャツ作りを通して唐津の物作りのよさやすばらしい環境をたくさんの人に広めたい。そういう思いから社名に唐津といれました。ここは自然豊かでどこも景色が気持ちよく、海の幸も山の幸も豊富で食べ物もおいしいし、福岡市からのアクセスもよく物流も便利。そして昔から陶芸が盛んだっただけに手先が器用な人も多く、実は物作りをする上でとても恵まれた場所なんです」。
 唐津という名前を背負って、クオリティの高い物作りをすることでこの土地の魅力までも発信しているという「唐津シャツ工房」。そんな高い志を持ちシャツ生産をするこの工房を力武さんの案内で覗かせていただくと、他の工場にはない独特な生産背景を目の当たりにすることに。

縫製未経験者の仕事ぶりが
シャツ作りの一番の鍵

 

 丁寧に縫製された仕立てのいいシャツを「PARKING」で見たときにイメージしたのは、老練の職人たちがミシンを踏み縫製作業をしている姿であった。だが、「唐津シャツ工房」の作業場に足を踏みいれるとそのイメージとは大きく違う風景が飛び込んできた。ミシンの運針やアイロンのスチーム音が心地よく鳴り響く、明るくクリーンな印象の工房には16人ほどのスタッフがいて、各々が持ち場につき黙々と自身の仕事をこなしている。そこで働くのはみんな女性でしかも若い人が多いことに驚いた。力武さんに勝手に思い描いていたイメージを話すと笑ってこう話してくれた。
 「うちで働く人たちはミシンを踏んだこともないような未経験者が多いんですよ。しかもみな工房からほど近い場所に暮らす女性たちなんです。ここでは特別な教育プログラムは設けておらず、彼女たちは先輩に習ってアイロン操作から始まり一つずつ与えられた仕事をこなしていくことで自然と技術を習得していったんです。自分も18歳から無知識でこの世界に飛び込みシャツ作りのノウハウを学んだ身なので、実体験も踏まえて未経験者でもいい仕事ができることになんら疑問はなかったんですね」。
 今は国内でも海外から研修生を招き生産を回している工場が多いなか、純粋に地元近隣の人たちを採用して1から技術を教え育てあげているのはとても貴重な存在である。さらに力武さんに未経験者を積極的に雇い育てている理由を聞くと、それこそが他のシャツ工場にはない「唐津シャツ工房」の強みになっていることに気づかされる。
 「実はこれまでほかの工場から研修でやってくる子を受け入れていたのですが、あまり長続きせずにやめてしまうことが多かったんです。その理由はうちが他の工場だと嫌がられるような仕様もできる限り受けるようにしていること。例えば1mm未満の幅でステッチを縫ってくださいというオーダーがあったとすれば、ほとんどの工場が断ってしまう仕様。だから経験者ならば誰もができないと思ってすぐに匙を投げてしまう。でも、未経験者は違うんです。下手に知識や固定概念がない分、1mm未満の幅というオーダーが来てもあまり偏見を持たず一生懸命に仕上げてくれる。実はその未経験者の作業に向かう素直な姿勢こそがシャツ生産の新しい技術やアイデアをもたらしてくれているんです。未経験者を1から育てることは教える方も、覚える方も大変だとは思うのですが、長い目でみればそれが「唐津シャツ工房」の大きな強みになることを今ひしひしと感じています。それに雇用環境の少ない地方でやりがいのある仕事を提供するという意味でも、未経験者の採用はすごく意義のあることだと思っています」。
 今や未経験から習得したとは思えないほどの卓越した縫製技術を持ったスタッフを何人も育て上げている力武さんは、彼女たちが仕事をしやすいように力を入れて製作しているものがある。それは何ページにも渡って縫製指示や工程の詳細がみっちりと書き込まれた特別な仕様書。
 「デザイナーさんからいただく指示書をもとに、たとえ知識がなくとも誰でも一目見れば作業を理解できるようないわゆる説明書を作ることが私の大きな役割の一つ。襟や袖、身頃など各パーツに細かく分けての縫製指示や、図での解説などこれほど細かい仕様書を作るのはここだけかもしれませんね。みんなはその説明通りに作業をこなしてくれるので、この仕様書が完璧に作れればもはやシャツは完成したといっても過言ではないくらい重要なんです」。

(後編へ続く)

唐津シャツ工房
同佐賀県にあるシャツ専門工場にて生産経験を積んだ力武正二さんが 1995年に独立して自身の工房をスタート。 2017年に会社名を現在の「唐津シャツ工房」に変更し、工場も移転した。きれいな仕上げのメンズカジュアルシャツの生産を得意とし、小ロット生産やデザインの理解度などフレキシブルな生産背景と細やかな縫製で多くのブランドから絶大な支持を受けている。

Photo : Tetsuo Kashiwada
Text : Yuichi Samejima

CATEGORY:
Share:
facebook
twitter

To TOP