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〈MARKAWARE〉、〈marka〉の2ブランドから生み出されるウエアには一点一点、物語が眠っています。
原料選びから紡績、製織、染色、縫製、プレス、加工に至るまで、それぞれのウエアが作られる背景や各過程を支える職人や工場、農園を紹介しながら、これから暮らしをともにする洋服により愛着を持っていただけるような情報を共有していくのが「PARKING MAGAZINE」。
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FARMSファッションの原点を探る旅

パタゴニア、アンデス山脈プレオーガニック羊牧場

PRE-ORGANIC SHEEP FARM AT THE FOOT OF ANDES

August 22, 2018

洋服作りの源流である農業の現場を伝えるFARMS。今回はパタゴニアの西側フィッツロイ山を望む、アンデス山脈と湖の町「エル・チャルテン」近郊のプレオーガニック牧場を紹介する。

湖と山とプレオーガニック

南米アルゼンチンの西側は縦に連なるアンデス山脈で隣国チリと分けられている。そのアンデス山脈のアルゼンチン側の麓に位置する「エルカラファテ」は広大なパタゴニアの入り口として、またアウトドアアクティビティの拠点として多くの旅行者が集まる町である。ペリト・モレノ氷河などいくつかの氷河が溶けた水で満たされたアルヘンティーノ湖の湖畔に位置しており、この湖はアルゼンチン最大で面積は琵琶湖の約2倍ある。氷河が、長い年月をかけて山の岩肌を削ることで鉱物が溶け出した水は、エメラルドグリーンやターコイズブルーといった美しい色あいの水で満たされている。その湖面に青く輝く氷の塊が浮かぶ姿は幻想的な美しさだ。

アルヘンティーノ湖の北にはもう一つの大きな湖「ビエドマ湖」がある。この湖も同じくアンデス山脈からの水で出来た湖で、この二つはラ・レオナ川で結ばれ、最後は大西洋へと流れ込んでいる。アルヘンティーノ湖の南側の町カラファテの空港に夜遅くついた僕は、二つの湖の湖畔を走り、ビエドマ湖の北側の町「エル・チャルテン」へと北上した。
エルチャルテンには別の有名なランドマークがある。某アウトドアメーカーのロゴマークに描かれている山として有名な標高3405mの「フィッツ・ロイ」だ。万年雪をたたえた南アンデス山脈にあって、その山は雪をとどめておくには傾斜がきつすぎるほど切り立っている。

アルゼンチンの「トレッキングの都」、「アウトドアの聖地」と呼ばれるこの町に、人気(ひとけ)の無い初冬のオフシーズンにやってきたのは、旅の二番目の目的地であるプレオーガニック羊牧場に行くためである。

プレオーガニックとは公的な機関からオーガニックの認証を受けるには3年間の監査期間を経なければならず、オーガニック農法を行いながらもまだ認証を受けられていない農場やその作物の総称。オーガニック羊牧場の監査はアルゼンチンではSENASA(アルゼンチン検疫局)がおこなっており、その監査は何段階かにわかれている。まず第一ステップは牧草の生育状況についてであり、土地の力が弱っておらず、牧草が農薬を使わずに適切に生育するかを調べる。広大な牧場の中に何カ所かの検査区域を作り、GPSで場所の特定を行いながら、羊が牧草を食べた後にも適切に育ち次の餌になるかを確認している。第二ステップは獣医学的な見地からの羊の成育方法について。動物にインパクトを与えずに、また数種の認証を受けた薬品以外を使わずに育てているかが調べられる。もちろん抗生物質などの投与は許されていない。そして第三ステップとして前々回のコラムで書いたアニマルウェルフェア「動物の5つの自由」が守られているかが評価される。それ以外にも刈った毛の運搬時に他の羊毛と混じらないよう専用のコンテナを使うなど様々なことが認証には必要になる。これらを3年間かけて監査する。

ガウチョと牧羊犬とドローン

翌朝8時にホテルに迎えに来てくれたクリスチャンの車に乗り、朝焼けの中ピンクに染まるフィッツ・ロイを眺めながら牧場へと向かった。40分ほどのドライブで着いた牧場の敷地面積は74,000ヘクタールあり、広大な草原はアンデス山脈と湖の周辺に広がり、敷地内には川が3本流れている。実に東京ドーム17,400個分の広さで、17,500頭の羊を育てている。つまり羊一頭に対して東京ドーム一つ分の敷地がある。

牧場の居住棟に案内された僕をクリスチャンの友人でこの日手伝いに来ていたヘラルドが迎えてくれた。彼の淹れてくれたコーヒーとマテ茶をご馳走になり、二人と共に車で羊の群れを探しに出かけた。荷台にはボーダーコリーの「アイカ」とドローンを積んでいる。クリスチャンもヘラルドもベレー帽にスカーフを巻いたガウチョで、ロデオを通じて仲良くなったという伝統的なパタゴニアの男である。しかし伝統的な放牧だけでなく新しい技術を取り入れている。買った当初は周りの牧場関係者から馬鹿にされたというが、羊がどこにいて、どこに水溜まりができているかなどを空から確かめられ、また飛行音がうるさいため羊たちが逃げようとして、羊追いにも使える。ちなみに牧場には携帯の電波はもちろん、インターネット回線や電気(※1)すら来ていない。ドローンの先進性だけが他から際立っていた。

クリスチャンは目星を付けていた場所に車を停めるとアイカを放しドローンをセッティングした。5分ほどで「向こうから羊が来る」とクリスチャンが指す方向を凝視すると、だんだんと100頭以上の大きな羊の群れが見え始めた。群れがある程度近くまで来たところで、クリスチャンのドローンに替わって、僕が持参したドローンを飛ばして撮影を行った。雄大なパタゴニアの牧場を駆け回る羊たちのこれまで見たことの無い映像を撮影することが出来た。

その後、毛刈り小屋に案内され羊毛に関する話をいろいろと聞いた。ここでは9月中頃から20日ほどかけて毛刈りをする。いくつもの牧場を巡りながら毛刈りをする職人集団がいて、毎年7〜8人がこの牧場にやってくる。一頭の毛刈りをするのに要する時間は約2分で、一人一日あたり180頭の毛を刈るということだ。アニマルウェルフェアの観点から、羊に傷を負わせないように刈ると同時に、ストレスを少なくするようなるべく短時間の拘束ですませる必要がある。一頭から採れる毛の量は大人の羊で4.5kg程度、子羊だと3キロ程度だという。これは洗った後で2〜3kgとなり、一頭の羊からミドルゲージのセーターで6〜7枚は採れる量になる。ここの羊の平均繊度(※2)は21マイクロンだが、子羊から採れる17.5マイクロン(スーパー120s)の毛も産出している。

この牧場の毛は、まだプレオーガニックウールであるが、向こう3年間北欧のアパレルメーカーが全量買い取る契約になっていると話ていた。アンデス山脈の麓、湖の周りの大草原を自由に駈け巡る羊たちの毛はサステイナブルな繊維として際立った魅力を持っている。

別れ際に二人からプレゼントをもらった。クリスチャンからはベレー帽を、ヘラルドからは巻いていたスカーフを。先に訪れた牧場での約束と同じく彼らも「次は毛刈りの時期においで」と言っていた。彼らから貰ったベレーとスカーフを身につけてフルマンの管理する11の牧場を毛刈りシーズンに巡るのが次の目標になった。

※1 。電気は日が沈んだら発電機を付ける。常に動かしておく冷蔵庫はプロパンガスで動いている。外との連絡を取るには郵便か、町まで行って電話をするしかない。「FACEBOOKはやってるけど、2〜3日に一度、町に行く時にしかチェックできない」とのこと。

※2 繊維の太さのこと。一般的には糸として束ねた繊維の太さを表す番手やデニールなどの単位を指す。ここでは繊維1本の直径を意図して使用している。マイクロンはマイクロメートルつまり100万分の1メートル(1/100mm)。

Photo&Text : Shunsuke Ishikawa

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湖と山とプレオーガニック

南米アルゼンチンの西側は縦に連なるアンデス山脈で隣国チリと分けられている。そのアンデス山脈のアルゼンチン側の麓に位置する「エルカラファテ」は広大なパタゴニアの入り口として、またアウトドアアクティビティの拠点として多くの旅行者が集まる町である。ペリト・モレノ氷河などいくつかの氷河が溶けた水で満たされたアルヘンティーノ湖の湖畔に位置しており、この湖はアルゼンチン最大で面積は琵琶湖の約2倍ある。氷河が、長い年月をかけて山の岩肌を削ることで鉱物が溶け出した水は、エメラルドグリーンやターコイズブルーといった美しい色あいの水で満たされている。その湖面に青く輝く氷の塊が浮かぶ姿は幻想的な美しさだ。

アルヘンティーノ湖の北にはもう一つの大きな湖「ビエドマ湖」がある。この湖も同じくアンデス山脈からの水で出来た湖で、この二つはラ・レオナ川で結ばれ、最後は大西洋へと流れ込んでいる。アルヘンティーノ湖の南側の町カラファテの空港に夜遅くついた僕は、二つの湖の湖畔を走り、ビエドマ湖の北側の町「エル・チャルテン」へと北上した。
エルチャルテンには別の有名なランドマークがある。某アウトドアメーカーのロゴマークに描かれている山として有名な標高3405mの「フィッツ・ロイ」だ。万年雪をたたえた南アンデス山脈にあって、その山は雪をとどめておくには傾斜がきつすぎるほど切り立っている。

アルゼンチンの「トレッキングの都」、「アウトドアの聖地」と呼ばれるこの町に、人気(ひとけ)の無い初冬のオフシーズンにやってきたのは、旅の二番目の目的地であるプレオーガニック羊牧場に行くためである。

プレオーガニックとは公的な機関からオーガニックの認証を受けるには3年間の監査期間を経なければならず、オーガニック農法を行いながらもまだ認証を受けられていない農場やその作物の総称。オーガニック羊牧場の監査はアルゼンチンではSENASA(アルゼンチン検疫局)がおこなっており、その監査は何段階かにわかれている。まず第一ステップは牧草の生育状況についてであり、土地の力が弱っておらず、牧草が農薬を使わずに適切に生育するかを調べる。広大な牧場の中に何カ所かの検査区域を作り、GPSで場所の特定を行いながら、羊が牧草を食べた後にも適切に育ち次の餌になるかを確認している。第二ステップは獣医学的な見地からの羊の成育方法について。動物にインパクトを与えずに、また数種の認証を受けた薬品以外を使わずに育てているかが調べられる。もちろん抗生物質などの投与は許されていない。そして第三ステップとして前々回のコラムで書いたアニマルウェルフェア「動物の5つの自由」が守られているかが評価される。それ以外にも刈った毛の運搬時に他の羊毛と混じらないよう専用のコンテナを使うなど様々なことが認証には必要になる。これらを3年間かけて監査する。

ガウチョと牧羊犬とドローン

翌朝8時にホテルに迎えに来てくれたクリスチャンの車に乗り、朝焼けの中ピンクに染まるフィッツ・ロイを眺めながら牧場へと向かった。40分ほどのドライブで着いた牧場の敷地面積は74,000ヘクタールあり、広大な草原はアンデス山脈と湖の周辺に広がり、敷地内には川が3本流れている。実に東京ドーム17,400個分の広さで、17,500頭の羊を育てている。つまり羊一頭に対して東京ドーム一つ分の敷地がある。

牧場の居住棟に案内された僕をクリスチャンの友人でこの日手伝いに来ていたヘラルドが迎えてくれた。彼の淹れてくれたコーヒーとマテ茶をご馳走になり、二人と共に車で羊の群れを探しに出かけた。荷台にはボーダーコリーの「アイカ」とドローンを積んでいる。クリスチャンもヘラルドもベレー帽にスカーフを巻いたガウチョで、ロデオを通じて仲良くなったという伝統的なパタゴニアの男である。しかし伝統的な放牧だけでなく新しい技術を取り入れている。買った当初は周りの牧場関係者から馬鹿にされたというが、羊がどこにいて、どこに水溜まりができているかなどを空から確かめられ、また飛行音がうるさいため羊たちが逃げようとして、羊追いにも使える。ちなみに牧場には携帯の電波はもちろん、インターネット回線や電気(※1)すら来ていない。ドローンの先進性だけが他から際立っていた。

クリスチャンは目星を付けていた場所に車を停めるとアイカを放しドローンをセッティングした。5分ほどで「向こうから羊が来る」とクリスチャンが指す方向を凝視すると、だんだんと100頭以上の大きな羊の群れが見え始めた。群れがある程度近くまで来たところで、クリスチャンのドローンに替わって、僕が持参したドローンを飛ばして撮影を行った。雄大なパタゴニアの牧場を駆け回る羊たちのこれまで見たことの無い映像を撮影することが出来た。

その後、毛刈り小屋に案内され羊毛に関する話をいろいろと聞いた。ここでは9月中頃から20日ほどかけて毛刈りをする。いくつもの牧場を巡りながら毛刈りをする職人集団がいて、毎年7〜8人がこの牧場にやってくる。一頭の毛刈りをするのに要する時間は約2分で、一人一日あたり180頭の毛を刈るということだ。アニマルウェルフェアの観点から、羊に傷を負わせないように刈ると同時に、ストレスを少なくするようなるべく短時間の拘束ですませる必要がある。一頭から採れる毛の量は大人の羊で4.5kg程度、子羊だと3キロ程度だという。これは洗った後で2〜3kgとなり、一頭の羊からミドルゲージのセーターで6〜7枚は採れる量になる。ここの羊の平均繊度(※2)は21マイクロンだが、子羊から採れる17.5マイクロン(スーパー120s)の毛も産出している。

この牧場の毛は、まだプレオーガニックウールであるが、向こう3年間北欧のアパレルメーカーが全量買い取る契約になっていると話ていた。アンデス山脈の麓、湖の周りの大草原を自由に駈け巡る羊たちの毛はサステイナブルな繊維として際立った魅力を持っている。

別れ際に二人からプレゼントをもらった。クリスチャンからはベレー帽を、ヘラルドからは巻いていたスカーフを。先に訪れた牧場での約束と同じく彼らも「次は毛刈りの時期においで」と言っていた。彼らから貰ったベレーとスカーフを身につけてフルマンの管理する11の牧場を毛刈りシーズンに巡るのが次の目標になった。

※1 。電気は日が沈んだら発電機を付ける。常に動かしておく冷蔵庫はプロパンガスで動いている。外との連絡を取るには郵便か、町まで行って電話をするしかない。「FACEBOOKはやってるけど、2〜3日に一度、町に行く時にしかチェックできない」とのこと。

※2 繊維の太さのこと。一般的には糸として束ねた繊維の太さを表す番手やデニールなどの単位を指す。ここでは繊維1本の直径を意図して使用している。マイクロンはマイクロメートルつまり100万分の1メートル(1/100mm)。

Photo&Text : Shunsuke Ishikawa

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