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〈MARKAWARE〉、〈marka〉の2ブランドから生み出されるウエアには一点一点、物語が眠っています。
原料選びから紡績、製織、染色、縫製、プレス、加工に至るまで、それぞれのウエアが作られる背景や各過程を支える職人や工場、農園を紹介しながら、これから暮らしをともにする洋服により愛着を持っていただけるような情報を共有していくのが「PARKING MAGAZINE」。
アイテム1つずつに深い理解度を持って愛せる、好奇心を持った男性に贈るウェブマガジンです。

FACTORIES良質な服が生まれる場所と人。

Vol.06 カネタ織物(後編)

Vol.0 6 Kaneta Fabrices

August 02, 2018

ブランドの服作りを支える日本の工場や職人のもとを訪ね、生産背景を紹介していくファクトリーズ。第6回は引き続き静岡の織物工場「カネタ織物」の取材の模様を紹介。今回は、工場とともに伝統を重ねる大変貴重なシャトルドビー織機で織られる、風合い美しいコットン生地の魅力に迫ります。

古い織機でしか生み出せない、
良き風合いを求めて。

今や貴重とされるシャトルドビー織機の実働機が22台完備されているというカネタ織物の工場内部へと足を踏み入れると、外とは打って変わった世界が広がっていた。まず驚いたのは織機の凄まじい作業音。「ガシャン、ガシャン」とリズミカルに稼働する機械の轟音が鳴り響く工場内は、大声を張らないと会話ができないほど。その大きな音に負けず劣らず、シャトルドビー織機の存在感も圧巻で、経糸を送り続ける機械の動きも迫力がある。このシャトル織機とはそもそもどういった機械なのだろうか? 太田稔さんにその特徴を聞いてみた。

「シャトル織機の大きな特徴といえば、まさに名前にもあるシャトル。これには緯糸が巻かれたボビンが中に仕込まれています。そのシャトルが左右に動き、機械に取り付けられた経糸の間を通ることで生地が織られていくというのが仕組みです。これは機械織としてはもっとも古いタイプの織機で、今の新しいモデルと比べれば構造はシンプル。とはいえ、古い機械ですので油を注したり糸調子を見たりとけっこう手間もかかりますね。なにせ、機械のメンテナンス次第で織り上がりの良さが決まると言っても過言ではありませんから、うちでは長年のキャリアを持つ技術者が保全作業を細かく行っているんですよ」。

今や現存する個体数が少ないと言われるシャトルドビー織機を手間暇かけてメンテナンスをしながら使い続けるのには訳がある。それはこの織機でしか表現できない生地の風合い。その仕上がりについて太田さんはこんな話を聞かせてくれた。

「このシャトルドビー機は、けっして生産効率がいいとはいえないんです。なにせうちの織機は、1日で50メートルほど織るのに対し、最新の高速織り機だとその3倍は織り上げてしまいますからね。でも遅い分、あまり経糸にテンションがかからないので、ふっくらとした独特の風合いの生地が出来上がるんです。特に経糸を一度に5000本以上も取り付けて織り上げる高密度の織物でも、肌触りのよいソフトな風合いに仕上げられるのはシャトル織機ならではの魅力。また、打ち込みのしっかりした生地なので、洗濯していくとより柔らかい風合いへと変わっていくのも特徴で、長く愛着を持って付き合える生地であることも自慢のひとつです。

工場には、実をいうとコンピューター制御を兼ね備えた最新式の織機も3台導入されている。だがここカネタ織物へ生地発注をする企業やブランドのほとんどは、スピードは遅くとも古い織機から生み出される風合いの良い生地を求める声が多いとのこと。まさに〈マーカウエア〉もそのひとつ。こだわって選び抜いた原料から撚られた糸の良さをしっかりと活かして織り上げてくれるカネタ織物の生地を使うことは、質のいいシャツを仕立てる上でもはや欠かせない存在となっているのだ。

確かな技術と経験を活かし作られる
オリジナル生地と遠州産地の未来。

工場内ではちょうど機械のメンテナンスや織りに使用する緯糸をボビンに巻いている職人さんの姿があった。ここカネタ織物の従業員は太田さんも含め6名と想像以上に少ない人数で生産を回している。作業は朝の4時から機械が動き出し、夕方18時で終えるというのが毎日のルーティン。その織物生産の作業工程を聞いてみるとまず糸を織機にセッティングする経通し(へとおし)という作業から始まるのだそう。

「経通しとは織機に経糸を取り付けていく作業です。これが高密度織りのように多い時は1万本以上取り付けることもあって、それを職人が一本ずつ手作業で取り付けていくので、とても根気のいる作業なんですよ。熟練した職人が1日作業して3000本ほど取り付けるので、経通し作業に入れば、ほぼ1日仕事になります。この経糸のセッティングは生地の仕上がりを左右する大事な作業となるので、まさに職人の知識や経験が必要となる工程です。経糸の取り付けが終わり緯糸の入ったシャトルを設定して織機を稼働させていきます。このシャトル織機は緯糸を1分間で160本ほど通すので、一反(50m)を織るのに太番手の糸なら約1日、細番手の糸を使用した高密度の織物の場合は2日ほどかかりますね。このように織り上げる時間はほぼ緯糸の密度で決まってきます。機械を回している間もテンションのかかり具合や機械の調整など職人が都度チェックを行い、織り上がったところで一反ずつ検反機を使用して糸の抜け落ちがないか細かく検品し、加工工場に出荷して仕上げを行うことで生地が完成するというのが一連の流れです」。

各工程を熟練した職人が丁寧に作業しながら織り上げていく、まさに少数精鋭なカネタ織物の生産背景を目の当たりにし、一反ずつ織り上げていくのにある程度の時間がかかるのも納得。だが、カネタ織物ではブランドや生地問屋からの発注依頼をただこなすだけではなく、自社が作る生地の魅力や可能性をより広げるために、ここ数年オリジナル生地の開発にも積極的に取り組んでいるという。その新たな動きは遠州生地の未来を見据えてのものだと太田さんは最後に話してくれた。

「昭和の好景気の頃は“ガチャマン”と言って、織り機が一織りするごとに1万円儲かるといわれた時代がありました。ですが今やそれも昔の話で、ただ生地問屋からやってくる仕事だけを待っている、いわゆる下請けの仕事だけでは工場は回らず、その理由で遠州生地を織っていた多くの工場が閉鎖してしまいました。そんなこともありこれからは自分たちで生地を開発して展示会などに参加し、直接売り込んでいかないといけないと10年ほど前からシフトチェンジしていきました。特にどの工場でも生産を嫌がられるような、強撚糸を使った高密度織りものなどにも積極的に取り組んで、国内はもとより海外にも遠州生地産地の技術力の高さと、シャトルドビー織機で織られた生地の作りの良さを伝えていきたいんです。また、デザイナーさんに向けて織機をレンタルするといった取り組みも考えていて、より生地の理解度を深めてもらうことで、服作りする人と生地の生産者とで互いに意見を交換し、またそこから新しい生地が生み出せる気がするんです。そういった活動をすることで遠州生地の新たな魅力も引き出し、未来へと希望を繋ぐきっかけを作れたら嬉しいですね」。

カネタ織物

静岡県掛川市にて昭和30年に創業。今や希少なシャトルドビー織機を用いて織られる独自の風合いと表情を持ったシャツ生地を中心とした綿織物は、〈マーカウエア〉をはじめ国内外のメゾンブランドなどで使用されており、多くのデザイナーを魅了している。

Photo : Kazufumi Shimoyashiki
Text : Yuichi Samejima

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古い織機でしか生み出せない、
良き風合いを求めて。

今や貴重とされるシャトルドビー織機の実働機が22台完備されているというカネタ織物の工場内部へと足を踏み入れると、外とは打って変わった世界が広がっていた。まず驚いたのは織機の凄まじい作業音。「ガシャン、ガシャン」とリズミカルに稼働する機械の轟音が鳴り響く工場内は、大声を張らないと会話ができないほど。その大きな音に負けず劣らず、シャトルドビー織機の存在感も圧巻で、経糸を送り続ける機械の動きも迫力がある。このシャトル織機とはそもそもどういった機械なのだろうか? 太田稔さんにその特徴を聞いてみた。

「シャトル織機の大きな特徴といえば、まさに名前にもあるシャトル。これには緯糸が巻かれたボビンが中に仕込まれています。そのシャトルが左右に動き、機械に取り付けられた経糸の間を通ることで生地が織られていくというのが仕組みです。これは機械織としてはもっとも古いタイプの織機で、今の新しいモデルと比べれば構造はシンプル。とはいえ、古い機械ですので油を注したり糸調子を見たりとけっこう手間もかかりますね。なにせ、機械のメンテナンス次第で織り上がりの良さが決まると言っても過言ではありませんから、うちでは長年のキャリアを持つ技術者が保全作業を細かく行っているんですよ」。

今や現存する個体数が少ないと言われるシャトルドビー織機を手間暇かけてメンテナンスをしながら使い続けるのには訳がある。それはこの織機でしか表現できない生地の風合い。その仕上がりについて太田さんはこんな話を聞かせてくれた。

「このシャトルドビー機は、けっして生産効率がいいとはいえないんです。なにせうちの織機は、1日で50メートルほど織るのに対し、最新の高速織り機だとその3倍は織り上げてしまいますからね。でも遅い分、あまり経糸にテンションがかからないので、ふっくらとした独特の風合いの生地が出来上がるんです。特に経糸を一度に5000本以上も取り付けて織り上げる高密度の織物でも、肌触りのよいソフトな風合いに仕上げられるのはシャトル織機ならではの魅力。また、打ち込みのしっかりした生地なので、洗濯していくとより柔らかい風合いへと変わっていくのも特徴で、長く愛着を持って付き合える生地であることも自慢のひとつです。

工場には、実をいうとコンピューター制御を兼ね備えた最新式の織機も3台導入されている。だがここカネタ織物へ生地発注をする企業やブランドのほとんどは、スピードは遅くとも古い織機から生み出される風合いの良い生地を求める声が多いとのこと。まさに〈マーカウエア〉もそのひとつ。こだわって選び抜いた原料から撚られた糸の良さをしっかりと活かして織り上げてくれるカネタ織物の生地を使うことは、質のいいシャツを仕立てる上でもはや欠かせない存在となっているのだ。

確かな技術と経験を活かし作られる
オリジナル生地と遠州産地の未来。

工場内ではちょうど機械のメンテナンスや織りに使用する緯糸をボビンに巻いている職人さんの姿があった。ここカネタ織物の従業員は太田さんも含め6名と想像以上に少ない人数で生産を回している。作業は朝の4時から機械が動き出し、夕方18時で終えるというのが毎日のルーティン。その織物生産の作業工程を聞いてみるとまず糸を織機にセッティングする経通し(へとおし)という作業から始まるのだそう。

「経通しとは織機に経糸を取り付けていく作業です。これが高密度織りのように多い時は1万本以上取り付けることもあって、それを職人が一本ずつ手作業で取り付けていくので、とても根気のいる作業なんですよ。熟練した職人が1日作業して3000本ほど取り付けるので、経通し作業に入れば、ほぼ1日仕事になります。この経糸のセッティングは生地の仕上がりを左右する大事な作業となるので、まさに職人の知識や経験が必要となる工程です。経糸の取り付けが終わり緯糸の入ったシャトルを設定して織機を稼働させていきます。このシャトル織機は緯糸を1分間で160本ほど通すので、一反(50m)を織るのに太番手の糸なら約1日、細番手の糸を使用した高密度の織物の場合は2日ほどかかりますね。このように織り上げる時間はほぼ緯糸の密度で決まってきます。機械を回している間もテンションのかかり具合や機械の調整など職人が都度チェックを行い、織り上がったところで一反ずつ検反機を使用して糸の抜け落ちがないか細かく検品し、加工工場に出荷して仕上げを行うことで生地が完成するというのが一連の流れです」。

各工程を熟練した職人が丁寧に作業しながら織り上げていく、まさに少数精鋭なカネタ織物の生産背景を目の当たりにし、一反ずつ織り上げていくのにある程度の時間がかかるのも納得。だが、カネタ織物ではブランドや生地問屋からの発注依頼をただこなすだけではなく、自社が作る生地の魅力や可能性をより広げるために、ここ数年オリジナル生地の開発にも積極的に取り組んでいるという。その新たな動きは遠州生地の未来を見据えてのものだと太田さんは最後に話してくれた。

「昭和の好景気の頃は“ガチャマン”と言って、織り機が一織りするごとに1万円儲かるといわれた時代がありました。ですが今やそれも昔の話で、ただ生地問屋からやってくる仕事だけを待っている、いわゆる下請けの仕事だけでは工場は回らず、その理由で遠州生地を織っていた多くの工場が閉鎖してしまいました。そんなこともありこれからは自分たちで生地を開発して展示会などに参加し、直接売り込んでいかないといけないと10年ほど前からシフトチェンジしていきました。特にどの工場でも生産を嫌がられるような、強撚糸を使った高密度織りものなどにも積極的に取り組んで、国内はもとより海外にも遠州生地産地の技術力の高さと、シャトルドビー織機で織られた生地の作りの良さを伝えていきたいんです。また、デザイナーさんに向けて織機をレンタルするといった取り組みも考えていて、より生地の理解度を深めてもらうことで、服作りする人と生地の生産者とで互いに意見を交換し、またそこから新しい生地が生み出せる気がするんです。そういった活動をすることで遠州生地の新たな魅力も引き出し、未来へと希望を繋ぐきっかけを作れたら嬉しいですね」。

カネタ織物

静岡県掛川市にて昭和30年に創業。今や希少なシャトルドビー織機を用いて織られる独自の風合いと表情を持ったシャツ生地を中心とした綿織物は、〈マーカウエア〉をはじめ国内外のメゾンブランドなどで使用されており、多くのデザイナーを魅了している。

Photo : Kazufumi Shimoyashiki
Text : Yuichi Samejima

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