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〈MARKAWARE〉、〈marka〉の2ブランドから生み出されるウエアには一点一点、物語が眠っています。
原料選びから紡績、製織、染色、縫製、プレス、加工に至るまで、それぞれのウエアが作られる背景や各過程を支える職人や工場、農園を紹介しながら、これから暮らしをともにする洋服により愛着を持っていただけるような情報を共有していくのが「PARKING MAGAZINE」。
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FARMSファッションの原点を探る旅

パタゴニア、バルデス半島オーガニック牧場(後編)

ORGANIC SHEEP FARM IN PENINSULA VALDES, PATAGONIA

July 20, 2018

洋服作りの源流である農業の現場を伝えるFARMS。アルゼンチンパタゴニア地方バルデス半島のオーガニック牧場の後編は、牧場での羊探しとパタゴニア地方での伝統的な生活についてのレポート。

ガウチョと羊とアサード

アルゼンチンを代表する料理であるアサード(※5)を準備してもらっている間に羊を探しに出かけた。建物が建つ牧場中心部には見当たらないので、車に乗る。轍だけの道を5分ほど走ると羊の姿が見えた。10頭前後のグループである。ただ、車が来るとすぐに逃げてしまう。そして、ある程度遠ざかり、安全であろう距離まで離れると、こちらの様子をうかがっている。遠すぎて撮影できないのでさらに轍を進むと、今度は道の前方を横切るグループがいた。今度はそっと車を降りて写真を撮ろうとする。忍び足で近づいているつもりだが、近づくと逃げ、足を止めると止まり、こちらを観察している。それを何度か繰り返しても、どんどん距離が離れていくばかりであった。

いつまでもまともに羊に接することが出来ないでいると、「馬と犬で羊を集めてくるよ」という話になった。アルゼンチンはガウチョの国である。数年前のガウチョパンツブームでその言葉は有名になったが、ガウチョとはアルゼンチンのカウボーイのこと。ここにはカウボーイ文化が根強く残っている。ロデオは非常に人気が高く、サッカーに次ぐほどのメジャースポーツだ。パタゴニアの男達は子供の頃から馬に乗り、多くの若者がロデオに熱くなる。年に一度開かれる大会は日本の甲子園のようなものらしい。ガウチョのトレードマークは日本でも有名になった太いパンツ。これをブーツにたくし込む。そしてベレー帽。これはみんな被っている。プラスして首元にスカーフを巻き、腰にナイフをさせば完全なガウチョスタイルである。残念ながらガウチョパンツは履いていなかったが、一人が馬に跨がり牧羊犬を連れて羊を追いにいってくれた。

しばらくして、遠くに彼の赤いベレー帽が見えた。それがだんだん近づいてくると、その前に十数頭の白い羊たちが走る姿が見えてきた。そして、はぐれそうになった羊を群れに戻すように駆け巡る黒い犬(※6)の姿。羊追いの姿を初めて見た。目指す小屋に向かって、巧く羊の群れを誘導する牧羊犬の姿には感動した。さっきまでは人の来訪が嬉しくて、じゃれて、ただのペットのようであった犬が、駆け巡りながら羊の群を追っている。
羊たちは木製の柵の間に誘導されて、一カ所に集められた。目の前にいるのは11頭の羊たち。雌が2頭と雄が2頭で他は1歳程度の子羊たちのグループだ。大人の羊が子羊達に自然の中で生きる術を学ばせているという。 身の危険を感じた時にそうするのか、互いに体を寄せ合ってひしめいている。羊たちが犬に追われること、そして狭い柵の中に閉じ込められることは強いストレスになっているのであろう。早く解放したいと感じながら、ようやく近くに寄れた羊に触れ、撮影を行った。遠くからだと白く見えた羊は、近くで見るとかなり汚れているが、ほぼ野生の中で暮らしているので当然だろう。汚れた毛を手で分けると、中には密に生えた真っ白な毛とピンク色の地肌が見える。

ここにいる羊はメリノ種。羊毛用として最高品種の羊である。メリノ種はもともとスペイン・イベリア半島で開発された。長い間スペイン王室が所有し、門外不出で管理された。しかし、後にスペイン帝国が財政難に陥ると少量が他国に輸出されるようになった。その際にフランスに輸出され改良されたランブイエ・メリノが、19世紀末アルゼンチンに持ち込まれ品種改良を受けたのが現在のアルゼンチンメリノである。この牧場で採れるウールも平均で18.5マイクロン(※6)と細く優秀なウールだ。

 細くてしかもオーガニック農法でストレスを与えずに健全に育てられたウールは、現在ヨーロッパを中心に大変な人気で、需要が産出量を上回っている。ただ、日本での使用は少ない。僕が今回アルゼンチンを訪問した目的は、自分が使うウールの原点を見たいということ以外に、産地で生産している人達とふれあうことで、少量でも継続して日本にこの原料が届くようにしたい。さらには、日本でもこのウールの良さをより多くの人に知ってもらいたいという思いもあった。

※5アルゼンチンのバーベキュー。薪を使って調理する。牧場にも建物の中にアサード用の暖炉が備え付けられている
※6メリノウールの平均は20-22マイクロン。

オーガニックウールと
オーガニックラムミートと

建物に戻ると食事の準備が出来ていた。アルゼンチン牛のバーベキューだ。野菜があまり採れないアルゼンチンでは肉の消費量が多い。一人あたりの牛肉消費量は日本の約10倍で、少し前までは世界一であった。自然の草で育つ牛の肉は赤身で旨い。かすかに牧草の香りを感じるような、最近流行のグラスフェッドビーフである。もう間もなく日本への輸入が解禁されるので、旅の記憶ととともに改めて楽しみたいと思っている。

 そしてパタゴニアの名物料理がパタゴニアラムの「パリーシャ(※7)」、羊肉の焚火網焼き。パタゴニアの羊肉のおいしさは世界一と言われている。今回は、羊肉のシーズンではなく食べなかったが、8年前にパタゴニアを訪問した際には食べた。日本で食べるラム肉特有の臭みは感じず、同時に供された牛肉よりも多く食べてしまうくらいおいしかった。羊はウールを採るだけで無く、食用にもなる。この牧場でも飼育数の数%が肉としてバルデス半島近郊のみで食される。オーガニックで育てられるこの牧場の羊は食用としても優秀である。

 羊たちに触れあった後に、刈り取られた毛の横に積み上げられた毛皮を見たときは、複雑な思いであった。「やっぱり食べるのか」という少し残念な気持ちと「それが当たり前」という理解の両方があった。そんな表情をしていたのか屠畜にもアニマルウェルフェアのポリシーを設けて実施しているという話をしてくれた。最大の苦しみをどれだけ軽減できるか、最も大切なポリシーだろう。

 実際見た羊たちは自由に暮らし、牧場は素晴らしく、そして人々にはこの牧場の考え方が行き渡っていた。次回は毛刈りの時期に再訪することを約束して牧場を後にした。

※7 「焼く」を意味するアサードと、「焼き網」を意味するパリーシャ。どちらもバーベキューの意味で使われるが、パリーシャというと網焼きのバーベキューの意味。羊一頭を開いた状態で、長時間かけて丸焼きにする。

 フルマンは今ある11の牧場以外にも、より多くの牧場運営に参加してオーガニックウールを拡げようとしている。次回のFARMSではフルマンが2年前に経営を引き継ぎ、来年のオーガニック認可取得に向けて監査を受けているアンデス山脈を望む牧場を紹介する。

Photo&Text : Shunsuke Ishikawa

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ガウチョと羊とアサード

アルゼンチンを代表する料理であるアサード(※5)を準備してもらっている間に羊を探しに出かけた。建物が建つ牧場中心部には見当たらないので、車に乗る。轍だけの道を5分ほど走ると羊の姿が見えた。10頭前後のグループである。ただ、車が来るとすぐに逃げてしまう。そして、ある程度遠ざかり、安全であろう距離まで離れると、こちらの様子をうかがっている。遠すぎて撮影できないのでさらに轍を進むと、今度は道の前方を横切るグループがいた。今度はそっと車を降りて写真を撮ろうとする。忍び足で近づいているつもりだが、近づくと逃げ、足を止めると止まり、こちらを観察している。それを何度か繰り返しても、どんどん距離が離れていくばかりであった。

いつまでもまともに羊に接することが出来ないでいると、「馬と犬で羊を集めてくるよ」という話になった。アルゼンチンはガウチョの国である。数年前のガウチョパンツブームでその言葉は有名になったが、ガウチョとはアルゼンチンのカウボーイのこと。ここにはカウボーイ文化が根強く残っている。ロデオは非常に人気が高く、サッカーに次ぐほどのメジャースポーツだ。パタゴニアの男達は子供の頃から馬に乗り、多くの若者がロデオに熱くなる。年に一度開かれる大会は日本の甲子園のようなものらしい。ガウチョのトレードマークは日本でも有名になった太いパンツ。これをブーツにたくし込む。そしてベレー帽。これはみんな被っている。プラスして首元にスカーフを巻き、腰にナイフをさせば完全なガウチョスタイルである。残念ながらガウチョパンツは履いていなかったが、一人が馬に跨がり牧羊犬を連れて羊を追いにいってくれた。

しばらくして、遠くに彼の赤いベレー帽が見えた。それがだんだん近づいてくると、その前に十数頭の白い羊たちが走る姿が見えてきた。そして、はぐれそうになった羊を群れに戻すように駆け巡る黒い犬(※6)の姿。羊追いの姿を初めて見た。目指す小屋に向かって、巧く羊の群れを誘導する牧羊犬の姿には感動した。さっきまでは人の来訪が嬉しくて、じゃれて、ただのペットのようであった犬が、駆け巡りながら羊の群を追っている。
羊たちは木製の柵の間に誘導されて、一カ所に集められた。目の前にいるのは11頭の羊たち。雌が2頭と雄が2頭で他は1歳程度の子羊たちのグループだ。大人の羊が子羊達に自然の中で生きる術を学ばせているという。 身の危険を感じた時にそうするのか、互いに体を寄せ合ってひしめいている。羊たちが犬に追われること、そして狭い柵の中に閉じ込められることは強いストレスになっているのであろう。早く解放したいと感じながら、ようやく近くに寄れた羊に触れ、撮影を行った。遠くからだと白く見えた羊は、近くで見るとかなり汚れているが、ほぼ野生の中で暮らしているので当然だろう。汚れた毛を手で分けると、中には密に生えた真っ白な毛とピンク色の地肌が見える。

ここにいる羊はメリノ種。羊毛用として最高品種の羊である。メリノ種はもともとスペイン・イベリア半島で開発された。長い間スペイン王室が所有し、門外不出で管理された。しかし、後にスペイン帝国が財政難に陥ると少量が他国に輸出されるようになった。その際にフランスに輸出され改良されたランブイエ・メリノが、19世紀末アルゼンチンに持ち込まれ品種改良を受けたのが現在のアルゼンチンメリノである。この牧場で採れるウールも平均で18.5マイクロン(※6)と細く優秀なウールだ。

 細くてしかもオーガニック農法でストレスを与えずに健全に育てられたウールは、現在ヨーロッパを中心に大変な人気で、需要が産出量を上回っている。ただ、日本での使用は少ない。僕が今回アルゼンチンを訪問した目的は、自分が使うウールの原点を見たいということ以外に、産地で生産している人達とふれあうことで、少量でも継続して日本にこの原料が届くようにしたい。さらには、日本でもこのウールの良さをより多くの人に知ってもらいたいという思いもあった。

※5アルゼンチンのバーベキュー。薪を使って調理する。牧場にも建物の中にアサード用の暖炉が備え付けられている
※6メリノウールの平均は20-22マイクロン。

オーガニックウールと
オーガニックラムミートと

建物に戻ると食事の準備が出来ていた。アルゼンチン牛のバーベキューだ。野菜があまり採れないアルゼンチンでは肉の消費量が多い。一人あたりの牛肉消費量は日本の約10倍で、少し前までは世界一であった。自然の草で育つ牛の肉は赤身で旨い。かすかに牧草の香りを感じるような、最近流行のグラスフェッドビーフである。もう間もなく日本への輸入が解禁されるので、旅の記憶ととともに改めて楽しみたいと思っている。

 そしてパタゴニアの名物料理がパタゴニアラムの「パリーシャ(※7)」、羊肉の焚火網焼き。パタゴニアの羊肉のおいしさは世界一と言われている。今回は、羊肉のシーズンではなく食べなかったが、8年前にパタゴニアを訪問した際には食べた。日本で食べるラム肉特有の臭みは感じず、同時に供された牛肉よりも多く食べてしまうくらいおいしかった。羊はウールを採るだけで無く、食用にもなる。この牧場でも飼育数の数%が肉としてバルデス半島近郊のみで食される。オーガニックで育てられるこの牧場の羊は食用としても優秀である。

 羊たちに触れあった後に、刈り取られた毛の横に積み上げられた毛皮を見たときは、複雑な思いであった。「やっぱり食べるのか」という少し残念な気持ちと「それが当たり前」という理解の両方があった。そんな表情をしていたのか屠畜にもアニマルウェルフェアのポリシーを設けて実施しているという話をしてくれた。最大の苦しみをどれだけ軽減できるか、最も大切なポリシーだろう。

 実際見た羊たちは自由に暮らし、牧場は素晴らしく、そして人々にはこの牧場の考え方が行き渡っていた。次回は毛刈りの時期に再訪することを約束して牧場を後にした。

※7 「焼く」を意味するアサードと、「焼き網」を意味するパリーシャ。どちらもバーベキューの意味で使われるが、パリーシャというと網焼きのバーベキューの意味。羊一頭を開いた状態で、長時間かけて丸焼きにする。

 フルマンは今ある11の牧場以外にも、より多くの牧場運営に参加してオーガニックウールを拡げようとしている。次回のFARMSではフルマンが2年前に経営を引き継ぎ、来年のオーガニック認可取得に向けて監査を受けているアンデス山脈を望む牧場を紹介する。

Photo&Text : Shunsuke Ishikawa

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