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〈MARKAWARE〉、〈marka〉の2ブランドから生み出されるウエアには一点一点、物語が眠っています。
原料選びから紡績、製織、染色、縫製、プレス、加工に至るまで、それぞれのウエアが作られる背景や各過程を支える職人や工場、農園を紹介しながら、これから暮らしをともにする洋服により愛着を持っていただけるような情報を共有していくのが「PARKING MAGAZINE」。
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FARMSファッションの原点を探る旅

パタゴニア、バルデス半島オーガニック牧場(前編)

ORGANIC SHEEP FARM IN PENINSULA VALDES, PATAGONIA

July 12, 2018

洋服作りの源流である農業の現場を伝えるFARMS。今回は地球の裏側アルゼンチン・パタゴニア地方にある世界自然遺産の中で育てられるオーガニックウール牧場を紹介する。

野生動物の宝庫、
世界自然遺産の中の羊牧場

世界自然遺産バルデス半島はアルゼンチン・パタゴニア地方(※1)の北部、大西洋に突き出た約3600㎢の半島だ。大きなヌエボ湾と、低い灌木と草の生える陸地で形成されるこの半島には、他では見られない動物相がある。鯨やシャチ、オタリア(アシカの一種)などの海洋生物が住み、オンシーズンにはホエールウォッチングに来た人達で賑わう。また、運が良ければオタリアに襲いかかるシャチが見られるらしい。陸上にはグアナコや、現地の名前でマーラというパタゴニアウサギなどが生息する。そんなユニークな生態系を持つ地球の裏側のパタゴニア・バルデス半島へとやってきた目的は、洋服作りの原点は農業にあるという思いを胸に、大好きなオーガニックウールが作られる現場をこの目で実際に見るためである。

滞在していたトレレウの街から車でバルデス半島に向かった。車はトヨタのハイラックス。牧場関係者の8割は乗っているという絶大な信頼を集める車だ。パタゴニアでは大きな道(といっても片側1車線)を外れると未舗装路で、4輪駆動のこの車が必要なのである。他のメーカーの同様な車種に比べ圧倒的に故障が少なく、何かあってもパーツが安い。アルゼンチンにはトヨタの工場がありハイラックスはこの国で作られているのだ。運転するのはディエゴ。羊のスペシャリストで渉外担当。ラテン系らしく明るい話し好きな人で、運転中もこの地域のことやシーカヤックの最中にシャチと遭遇し慌てて岸へ戻った話などを聞かせてくれて長時間のドライブも楽しいものに。 助手席にはアルゼンチン最大のオーガニックウールトップ工場(※2)を持ち、パタゴニア地方にある11の牧場で13万頭の羊をオーガニックで育てる「フルマン」のサステーナビリティー担当ウィリーが座っていた。

寄り道をしながら約2時間でバルデス半島の入り口に到着した。半島に入るには入場料を払いゲートを通らなければいけない。ここは世界遺産であると同時に国立公園になっている。今はオフシーズンなので、寂しい雰囲気だが、ホエールウォッチングがはじまる7月以降と夏にあたる12月後半からは多くの観光客とビーチで遊ぶ若者で賑わうそうだ。
ゲートを超えた後も、真っ直ぐな舗装路が半島の観光拠点であるプエルト・ピラミデス(※3)に向かって続くが、僕らの乗った車はすぐに右折して砂利道に入った。何も無い草原の中、数日前に降った雨でぬかるんだ道をパートタイムの四輪駆動に切り替えながらハイラックスは走って行く。「牧場はどこなの?」という問いかけに対しての答えは「このあたり全部が牧場だ。うちの牧場はもっと先だけど」。見渡す限りの草原は全て羊の牧場であった。日本で牧場というと草原に牛や羊がいて、のどかに草を食(は)んでいる姿や大きな牛舎とサイロを思い浮かべるが、このあたりにはそういうものが一切無し。それどころか羊の姿すら見当たらない。「羊を見つけるのは大変だよ」というウィリーの言葉通り、いくら目をこらしても羊は見つからない。ただ有刺鉄線の柵だけが、ここが牧場であるということを示していた。※1南北に3500kmあるアルゼンチンの南緯40度を流れるコロラド川以南の地域
※2刈り取った羊毛を洗浄し、繊維の方向を揃えて糸に紡績する前段階の下処理をする工場
※3ヌエボ湾に面した人口650人の町。ビーチや宿泊施設がある。ホエールウォッチングの拠点でもある。

オーガニックと
アニマルウェルフェアと

だんだんと細くなっていく道を進み、1時間ほど走って辿り着いたのはSAN JORGE牧場。フルマンが経営するオーガニック羊牧場だ。 ここは、15000haの広大な敷地の中で6500頭の羊を飼育している。羊たちはほぼ完全に自然環境の中で暮らしており、いわゆる家畜のイメージとは異なり野生動物のように生きている。小屋に集められるのは年に3回だけ。食事はもちろんのこと、出産も木陰など自然の中で行う。近年、欧米で大きく取り上げられるようになったアニマルウェルフェア(※4)の実践の場である。このアニマルウェルフェアの基本的な思想は「5つの自由」で表現されている。
①飢えや渇きからの自由
②痛み、負傷、病気からの自由
③恐怖や抑圧からの自由
④不快からの自由
⑤自然な行動をする自由。

より自然で健康的に、そして人間によるストレスを最小限に抑えることが求められている。同時にオーガニックの認証を受けるこの牧場は自然に生える牧草のみで羊を飼育し、認められた薬品のみでの最低限の医療行為しか行わない。ミュールシング(寄生虫防止のため、子羊のお尻の皮を剥ぎ取ること)はもちろんここには無い。動物愛護団体の中にはウールの使用をやめて、合成繊維を使うことを推奨するところもあるが、僕は違うと思う。動物にも、環境にも負荷の少ない方法で育てた羊毛は最高の繊維。それは合成繊維にはない、いくつもの素晴らしい特徴を持ち、再生産できて持続可能だ。環境面から考えれば地球上で最もサステイナブルな繊維と言える。

これらのことが実践できるのはパタゴニアという土地があってのこと。ここには大西洋から吹く強い風と寒さのため、牛の飼育や畑には向かない広大な草原がある。この牧場は羊二頭につき東京ドーム一個分もの広さがあるのだ。これだけ土地があれば、羊が草を食べても、次にまた同じ場所で食べるまでに草が成長するので、飼料を食べさせなくても十分な食事ができる環境である。もともと虫が少ない場所で、ヒツジキンバエなど羊に寄生する蠅もいないのでミュールシングはいらない。羊が自由に快適に暮らせる理想的な環境がここには整っていたのである。
※4動物福祉と訳される。人間が動物に与える痛みやストレスを最小限抑えること。
<後編に続く>

Photo&Text : Shunsuke Ishikawa

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野生動物の宝庫、
世界自然遺産の中の羊牧場

世界自然遺産バルデス半島はアルゼンチン・パタゴニア地方(※1)の北部、大西洋に突き出た約3600㎢の半島だ。大きなヌエボ湾と、低い灌木と草の生える陸地で形成されるこの半島には、他では見られない動物相がある。鯨やシャチ、オタリア(アシカの一種)などの海洋生物が住み、オンシーズンにはホエールウォッチングに来た人達で賑わう。また、運が良ければオタリアに襲いかかるシャチが見られるらしい。陸上にはグアナコや、現地の名前でマーラというパタゴニアウサギなどが生息する。そんなユニークな生態系を持つ地球の裏側のパタゴニア・バルデス半島へとやってきた目的は、洋服作りの原点は農業にあるという思いを胸に、大好きなオーガニックウールが作られる現場をこの目で実際に見るためである。

滞在していたトレレウの街から車でバルデス半島に向かった。車はトヨタのハイラックス。牧場関係者の8割は乗っているという絶大な信頼を集める車だ。パタゴニアでは大きな道(といっても片側1車線)を外れると未舗装路で、4輪駆動のこの車が必要なのである。他のメーカーの同様な車種に比べ圧倒的に故障が少なく、何かあってもパーツが安い。アルゼンチンにはトヨタの工場がありハイラックスはこの国で作られているのだ。運転するのはディエゴ。羊のスペシャリストで渉外担当。ラテン系らしく明るい話し好きな人で、運転中もこの地域のことやシーカヤックの最中にシャチと遭遇し慌てて岸へ戻った話などを聞かせてくれて長時間のドライブも楽しいものに。 助手席にはアルゼンチン最大のオーガニックウールトップ工場(※2)を持ち、パタゴニア地方にある11の牧場で13万頭の羊をオーガニックで育てる「フルマン」のサステーナビリティー担当ウィリーが座っていた。

寄り道をしながら約2時間でバルデス半島の入り口に到着した。半島に入るには入場料を払いゲートを通らなければいけない。ここは世界遺産であると同時に国立公園になっている。今はオフシーズンなので、寂しい雰囲気だが、ホエールウォッチングがはじまる7月以降と夏にあたる12月後半からは多くの観光客とビーチで遊ぶ若者で賑わうそうだ。
ゲートを超えた後も、真っ直ぐな舗装路が半島の観光拠点であるプエルト・ピラミデス(※3)に向かって続くが、僕らの乗った車はすぐに右折して砂利道に入った。何も無い草原の中、数日前に降った雨でぬかるんだ道をパートタイムの四輪駆動に切り替えながらハイラックスは走って行く。「牧場はどこなの?」という問いかけに対しての答えは「このあたり全部が牧場だ。うちの牧場はもっと先だけど」。見渡す限りの草原は全て羊の牧場であった。日本で牧場というと草原に牛や羊がいて、のどかに草を食(は)んでいる姿や大きな牛舎とサイロを思い浮かべるが、このあたりにはそういうものが一切無し。それどころか羊の姿すら見当たらない。「羊を見つけるのは大変だよ」というウィリーの言葉通り、いくら目をこらしても羊は見つからない。ただ有刺鉄線の柵だけが、ここが牧場であるということを示していた。※1南北に3500kmあるアルゼンチンの南緯40度を流れるコロラド川以南の地域
※2刈り取った羊毛を洗浄し、繊維の方向を揃えて糸に紡績する前段階の下処理をする工場
※3ヌエボ湾に面した人口650人の町。ビーチや宿泊施設がある。ホエールウォッチングの拠点でもある。

オーガニックと
アニマルウェルフェアと

だんだんと細くなっていく道を進み、1時間ほど走って辿り着いたのはSAN JORGE牧場。フルマンが経営するオーガニック羊牧場だ。 ここは、15000haの広大な敷地の中で6500頭の羊を飼育している。羊たちはほぼ完全に自然環境の中で暮らしており、いわゆる家畜のイメージとは異なり野生動物のように生きている。小屋に集められるのは年に3回だけ。食事はもちろんのこと、出産も木陰など自然の中で行う。近年、欧米で大きく取り上げられるようになったアニマルウェルフェア(※4)の実践の場である。このアニマルウェルフェアの基本的な思想は「5つの自由」で表現されている。
①飢えや渇きからの自由
②痛み、負傷、病気からの自由
③恐怖や抑圧からの自由
④不快からの自由
⑤自然な行動をする自由。

より自然で健康的に、そして人間によるストレスを最小限に抑えることが求められている。同時にオーガニックの認証を受けるこの牧場は自然に生える牧草のみで羊を飼育し、認められた薬品のみでの最低限の医療行為しか行わない。ミュールシング(寄生虫防止のため、子羊のお尻の皮を剥ぎ取ること)はもちろんここには無い。動物愛護団体の中にはウールの使用をやめて、合成繊維を使うことを推奨するところもあるが、僕は違うと思う。動物にも、環境にも負荷の少ない方法で育てた羊毛は最高の繊維。それは合成繊維にはない、いくつもの素晴らしい特徴を持ち、再生産できて持続可能だ。環境面から考えれば地球上で最もサステイナブルな繊維と言える。

これらのことが実践できるのはパタゴニアという土地があってのこと。ここには大西洋から吹く強い風と寒さのため、牛の飼育や畑には向かない広大な草原がある。この牧場は羊二頭につき東京ドーム一個分もの広さがあるのだ。これだけ土地があれば、羊が草を食べても、次にまた同じ場所で食べるまでに草が成長するので、飼料を食べさせなくても十分な食事ができる環境である。もともと虫が少ない場所で、ヒツジキンバエなど羊に寄生する蠅もいないのでミュールシングはいらない。羊が自由に快適に暮らせる理想的な環境がここには整っていたのである。
※4動物福祉と訳される。人間が動物に与える痛みやストレスを最小限抑えること。
<後編に続く>

Photo&Text : Shunsuke Ishikawa

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