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〈MARKAWARE〉、〈marka〉の2ブランドから生み出されるウエアには一点一点、物語が眠っています。
原料選びから紡績、製織、染色、縫製、プレス、加工に至るまで、それぞれのウエアが作られる背景や各過程を支える職人や工場、農園を紹介しながら、これから暮らしをともにする洋服により愛着を持っていただけるような情報を共有していくのが「PARKING MAGAZINE」。
アイテム1つずつに深い理解度を持って愛せる、好奇心を持った男性に贈るウェブマガジンです。

FACTORIES良質な服が生まれる場所と人。

Vol.04 カネキチ工業株式会社(後篇)

Vol.04 Kanekichi Industries

June 15, 2018

ブランドの服作りを支える日本の工場や職人のもとを訪ね、生産背景を紹介していくファクトリーズでは前回に続きカネキチ工業の取材をお届け。
後編では実際に吊り編み機が稼働する工場を拝見しながら古き良きメリヤス生地ならではの魅力に迫る。

しっかり人の手をかけて生地を編み出す、
吊り編み機でしか表現できないこと。

ちょうど3年前ぐらいに手に入れて、今も気に入ってよく着ている〈マーカウェア〉のスウェット。もちろんボディに使われているのは、カネキチ工業の吊り編み機で作られた生地である。そのスウェットを数年着ていて驚いたことは、どれだけ着続けていてもほとんど生地は伸びず、型崩れしないところ。そして何度洗っても着心地の良さや風合いをしっかりキープしている頑丈さ。まさに着れば着るほど作りの良さを実感できるこのスウェット生地は、いったいどのように生み出されているのだろうか?そんな興味を抱きながらカネキチ工業の代表、南方仁太郎さんに案内され、吊り編み機が稼働する工場へと足を踏み入れた。

「ここには200台ほどの吊り編み機があって、ちょうど今はその半分の100台ぐらいが稼働しています。ちなみにこの吊り編み機は、工場中央の屋根に設置された3台のモーターだけで全部が動いているんです。そのモーターが工場の端から端にかけられた長いシャフトを回し、そのシャフトに掛けられた革のベルトが一台一台の吊り編み機を動かしているという、原始的な動力なんです。この吊り編み機を回している革ベルトが実は生地の編み上げにも重要な役割を果たしているんですよ。吊り編み機の動きはかなり繊細で、ゴムベルトだとすべりが良すぎてしまい使ううちに伸びてしまうのですが、革ベルトは頑丈なうえテンションもちょうどよく、機械をうまく駆動させてくれます」。

気持ちいいぐらいすべてが一定速度を保ち、カタカタと音を刻みながら生地を編み上げていく吊り編み機たち。その機械で生地を生産することにおいて一番重要なのが、針と糸のセンティング。この工程こそが生地の仕上がりを左右する重要な作業であり、セッティングによって何千パターンという編みの種類を生み出しているのだ。そんな重要な工程を担うのは熟練した技術と知識を持つ工場長の岡谷義正さん。20年以上ここで機械に触れて、その仕様や癖を熟知した岡谷さんに、吊り編み機を扱うための苦労やポイントを聞いてみた。

「吊り編み機の最大の特徴といえば、機械をぐるりと一周して取り付けられた1000本以上のヒゲ針。この一本一本に糸を引っ掛ける作業が最初の工程です。この作業で針の数や糸のテンションのかけ具合を調整することによって、生地の密度や風合いが決まってくるんですよ。ちなみに吊り編み機でセッティングできる糸は1本から最大で4本。最新のシンカー丸編み機は40本から60本の糸を一気にセッティングできるわけなので、生地を編み上げる効率が圧倒的に違うんです。吊り編み機はヒゲ針に乗った糸が機械のへそ板部分で重なって天竺目ができて、設定した糸の太さ分の長さだけ編み出されていくので、ほんとうに少しずつしか編めません。でも、ゆっくりじっくりと編むことでしか得られないこともあって、生地が編みあがるまで糸に余計なテンションがほとんどかからないので、シンカーと比べるとふっくらとした風合いに仕上がるんです。これが吊り編み機が生む生地の魅力のひとつですね」。

作業で一番重要とされる糸のセッティングを終え機械を回し始めても、編み上がりまで実はまだ気が抜けない。「一反を編み上げるのに大体2~3日はかかるのですが、その間はただ回しているだけではなく、糸が擦れることで出る埃を取り除いたり、潤滑油を挿したり、糸が抜け落ちていないかチェックしたりと、意外と目が離せないんですよ。吊り編み機は機械ではあるものの、しっかり手をかけてあげないと生地が仕上がらないので、なにより生地作りにおいて大切なのは機械をしっかりメンテナンスして、うまく付き合っていくということですね」。

吊り編み機の技術と思いを、
次の時代へと引き継ぐために。

吊り編み機で生地を生産するにあたり重要となるメンテナンス作業において、特にケアしなければいけないのは予備パーツなどを揃えておくこと。だが古い機械なだけに今では生産されていない部品が山ほどあるので、パーツの確保はとても困難である。いったいどのようにこの貴重な機械をしっかりと維持しているのか南方さんに尋ねてみると、メリヤスの街と言われた和歌山ならではの話が聞けた。

「その昔、紀三井寺周辺では吊り編み機を使って生産していた工場がたくさんあったので、その分機械もたくさん導入されていたわけですよね。でも、時代とともにシンカー編み機へと移行する工場が増え、そこでたくさんの吊り編み機が使われなくなり行き場を失っていたわけです。そんな倉庫などに眠っていた機械を譲っていただいて修理をしたり、パーツ取りをすることで部品を確保してきました。こうやって長く吊り編み機を使い続けていられるのも、メリヤスの一大産地と言われた和歌山県だからこその恩恵なのかもしれませんね」。

貴重なパーツも今は十分に確保して、これから先も吊り編み機での生産を続けて行く中で、ある取り組みに力を入れているという。それは技術者の育成。次の時代へと吊り編み機の生産を引き継いでいくにあたり、歴史的ある工場において若い職人を育てることは至上命題なのである。

「今はどの県の工場でも職人不足や後継者問題に悩む声をたくさん聞きますね。うちは先代の頃から育成には力を入れており、他の工場と比べると若い職人が多いですね。とはいえ工場でも吊り編み機の扱いをすべて委ねられる職人は、今や工場長の岡谷を含めほんの数人。やはりこれから先もこの吊り編み機で生地を作り続けていくには、若い職人を育てるのが一番の使命。今、ここで働くほとんどのスタッフたちは、生地工場で仕事した経験はなく、みな一からここで仕事を学んでいるんです。下手に他の工場で経験を積んだ職人よりも、無知識なところからここの仕事を覚えてもらえる方が吸収も早く、とても純粋に技術を学んでくれるんです。それだけに地元の若い人にぜひ興味を持ってもらいたくて、そのために今僕らができることはやはり多くの人に感心していただけるような魅力的な生地を発信し続けることなんですよね」。

約100年続く生地作りの伝統を未来へと引き継ぐために、さらに新しい挑戦を続けているカネキチ工業。吊り編み機で編み上げた生地の魅力をこれからさらに多くの人へと広げるために必要なのは、《マーカウェア》を始め様々なブランドと信頼関係を築きあげることが重要と、最後に取締役の岡谷義之さんが話してくれた。

「私たちの作る生地は、服という状態になって初めてみなさんが触れるんですよね。でもここではいい生地は作れても、いい服は作れません。なのでまずは石川さんを始め多くの服作りに携わる人たちに、カネキチ工業が吊り編み機でどんな生地が編めて、どんな風合いに仕上がるのか、仕様を知っていただくのが僕らの仕事。その生地の特性を理解していただいた上でデザイナーさんからやって来るオーダーには、また思いもしない新しい生地作りのアイデアが眠っていたりするんです。最近はそういった新鮮な生地オーダーにも積極的に挑戦して期待に応えることによって、また新たな成長ができるとともに、吊り編み機の可能性もどんどん広げてくれるんですよ」。

カネキチ工業株式会社

大正9年創業。和歌山市紀三井寺に工場を構え吊り編み機でニット編み生地を生産し続けるメリヤス工場。伝統的な生産方法を守りながら新たな生地開発にも力を入れ、今の時代にもあった吊り編みの魅力を発信。また、今や減少し続けている編立職人の育成にも力をいれ、吊機での技術やノウハウの継承にも力を注いでいる。

Photo : Kazufumi Shimoyashiki
Text : Yuichi Samejima

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しっかり人の手をかけて生地を編み出す、
吊り編み機でしか表現できないこと。

ちょうど3年前ぐらいに手に入れて、今も気に入ってよく着ている〈マーカウェア〉のスウェット。もちろんボディに使われているのは、カネキチ工業の吊り編み機で作られた生地である。そのスウェットを数年着ていて驚いたことは、どれだけ着続けていてもほとんど生地は伸びず、型崩れしないところ。そして何度洗っても着心地の良さや風合いをしっかりキープしている頑丈さ。まさに着れば着るほど作りの良さを実感できるこのスウェット生地は、いったいどのように生み出されているのだろうか?そんな興味を抱きながらカネキチ工業の代表、南方仁太郎さんに案内され、吊り編み機が稼働する工場へと足を踏み入れた。

「ここには200台ほどの吊り編み機があって、ちょうど今はその半分の100台ぐらいが稼働しています。ちなみにこの吊り編み機は、工場中央の屋根に設置された3台のモーターだけで全部が動いているんです。そのモーターが工場の端から端にかけられた長いシャフトを回し、そのシャフトに掛けられた革のベルトが一台一台の吊り編み機を動かしているという、原始的な動力なんです。この吊り編み機を回している革ベルトが実は生地の編み上げにも重要な役割を果たしているんですよ。吊り編み機の動きはかなり繊細で、ゴムベルトだとすべりが良すぎてしまい使ううちに伸びてしまうのですが、革ベルトは頑丈なうえテンションもちょうどよく、機械をうまく駆動させてくれます」。

気持ちいいぐらいすべてが一定速度を保ち、カタカタと音を刻みながら生地を編み上げていく吊り編み機たち。その機械で生地を生産することにおいて一番重要なのが、針と糸のセンティング。この工程こそが生地の仕上がりを左右する重要な作業であり、セッティングによって何千パターンという編みの種類を生み出しているのだ。そんな重要な工程を担うのは熟練した技術と知識を持つ工場長の岡谷義正さん。20年以上ここで機械に触れて、その仕様や癖を熟知した岡谷さんに、吊り編み機を扱うための苦労やポイントを聞いてみた。

「吊り編み機の最大の特徴といえば、機械をぐるりと一周して取り付けられた1000本以上のヒゲ針。この一本一本に糸を引っ掛ける作業が最初の工程です。この作業で針の数や糸のテンションのかけ具合を調整することによって、生地の密度や風合いが決まってくるんですよ。ちなみに吊り編み機でセッティングできる糸は1本から最大で4本。最新のシンカー丸編み機は40本から60本の糸を一気にセッティングできるわけなので、生地を編み上げる効率が圧倒的に違うんです。吊り編み機はヒゲ針に乗った糸が機械のへそ板部分で重なって天竺目ができて、設定した糸の太さ分の長さだけ編み出されていくので、ほんとうに少しずつしか編めません。でも、ゆっくりじっくりと編むことでしか得られないこともあって、生地が編みあがるまで糸に余計なテンションがほとんどかからないので、シンカーと比べるとふっくらとした風合いに仕上がるんです。これが吊り編み機が生む生地の魅力のひとつですね」。

作業で一番重要とされる糸のセッティングを終え機械を回し始めても、編み上がりまで実はまだ気が抜けない。「一反を編み上げるのに大体2~3日はかかるのですが、その間はただ回しているだけではなく、糸が擦れることで出る埃を取り除いたり、潤滑油を挿したり、糸が抜け落ちていないかチェックしたりと、意外と目が離せないんですよ。吊り編み機は機械ではあるものの、しっかり手をかけてあげないと生地が仕上がらないので、なにより生地作りにおいて大切なのは機械をしっかりメンテナンスして、うまく付き合っていくということですね」。

吊り編み機の技術と思いを、
次の時代へと引き継ぐために。

吊り編み機で生地を生産するにあたり重要となるメンテナンス作業において、特にケアしなければいけないのは予備パーツなどを揃えておくこと。だが古い機械なだけに今では生産されていない部品が山ほどあるので、パーツの確保はとても困難である。いったいどのようにこの貴重な機械をしっかりと維持しているのか南方さんに尋ねてみると、メリヤスの街と言われた和歌山ならではの話が聞けた。

「その昔、紀三井寺周辺では吊り編み機を使って生産していた工場がたくさんあったので、その分機械もたくさん導入されていたわけですよね。でも、時代とともにシンカー編み機へと移行する工場が増え、そこでたくさんの吊り編み機が使われなくなり行き場を失っていたわけです。そんな倉庫などに眠っていた機械を譲っていただいて修理をしたり、パーツ取りをすることで部品を確保してきました。こうやって長く吊り編み機を使い続けていられるのも、メリヤスの一大産地と言われた和歌山県だからこその恩恵なのかもしれませんね」。

貴重なパーツも今は十分に確保して、これから先も吊り編み機での生産を続けて行く中で、ある取り組みに力を入れているという。それは技術者の育成。次の時代へと吊り編み機の生産を引き継いでいくにあたり、歴史的ある工場において若い職人を育てることは至上命題なのである。

「今はどの県の工場でも職人不足や後継者問題に悩む声をたくさん聞きますね。うちは先代の頃から育成には力を入れており、他の工場と比べると若い職人が多いですね。とはいえ工場でも吊り編み機の扱いをすべて委ねられる職人は、今や工場長の岡谷を含めほんの数人。やはりこれから先もこの吊り編み機で生地を作り続けていくには、若い職人を育てるのが一番の使命。今、ここで働くほとんどのスタッフたちは、生地工場で仕事した経験はなく、みな一からここで仕事を学んでいるんです。下手に他の工場で経験を積んだ職人よりも、無知識なところからここの仕事を覚えてもらえる方が吸収も早く、とても純粋に技術を学んでくれるんです。それだけに地元の若い人にぜひ興味を持ってもらいたくて、そのために今僕らができることはやはり多くの人に感心していただけるような魅力的な生地を発信し続けることなんですよね」。

約100年続く生地作りの伝統を未来へと引き継ぐために、さらに新しい挑戦を続けているカネキチ工業。吊り編み機で編み上げた生地の魅力をこれからさらに多くの人へと広げるために必要なのは、《マーカウェア》を始め様々なブランドと信頼関係を築きあげることが重要と、最後に取締役の岡谷義之さんが話してくれた。

「私たちの作る生地は、服という状態になって初めてみなさんが触れるんですよね。でもここではいい生地は作れても、いい服は作れません。なのでまずは石川さんを始め多くの服作りに携わる人たちに、カネキチ工業が吊り編み機でどんな生地が編めて、どんな風合いに仕上がるのか、仕様を知っていただくのが僕らの仕事。その生地の特性を理解していただいた上でデザイナーさんからやって来るオーダーには、また思いもしない新しい生地作りのアイデアが眠っていたりするんです。最近はそういった新鮮な生地オーダーにも積極的に挑戦して期待に応えることによって、また新たな成長ができるとともに、吊り編み機の可能性もどんどん広げてくれるんですよ」。

カネキチ工業株式会社

大正9年創業。和歌山市紀三井寺に工場を構え吊り編み機でニット編み生地を生産し続けるメリヤス工場。伝統的な生産方法を守りながら新たな生地開発にも力を入れ、今の時代にもあった吊り編みの魅力を発信。また、今や減少し続けている編立職人の育成にも力をいれ、吊機での技術やノウハウの継承にも力を注いでいる。

Photo : Kazufumi Shimoyashiki
Text : Yuichi Samejima

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