2001年にMarkaというブランドで洋服作りをはじめてからもう15年になります。ひとつひとつのモノをきちんと作っていくことが自分の中で喜びであることは洋服作りをはじめてから変わりません。MARKAWAREというブランドに関しては、さらに素材のところから手抜きをすることなく、きちんとやっていきたいという思いが強くなるばかりですし、それがブランドの核を成すところだと思っています。
2016年の秋冬については、この考え方をもとに、あえてテーマを掲げずに洋服作りに取り組んでいます。追求したのは、それぞれの服に対して一番良い素材を使うということです。
この「良い」ということのなかにはオーガニックも含まれています。そこで、まずどうしてオーガニックにこだわりたいのかというと、自分が作るもののなかに、環境や人体に対してネガティブなものをなるべく入れたくないという理由が挙げられます。農薬というものは生産効率をあげるためには重要なものかもしれません。しかし薬品である以上、人体や環境に対しての影響が非常に大きい。ですから、洋服作りに携わるものとして、それを少しでも減らすことができるのであれば、減らしていきたいと思い取り組んでいます。
しかし、オーガニックウールは希少なものです。以前はオーストラリア産のオーガニックウールを使っていましたが、現在は日本では手に入らなくなってしまいました。そこで、アルゼンチンの原毛を輸入したものから別注で糸を紡いでもらい、梳毛のフラノとギャバを作っています。
また、ニットでは僕がメンズセーターの糸のなかで一番好きなシェットランドウールを使っています。本物のシェットランドウールというものは、柔らかさが充分あり、嵩高なんです。つまり空気を多く含むために、ふんわりとした軽くて温かい生地になる。
しかし、シェットランド諸島というのは面積も限られていますしその中で生育している羊も少ないため、日本に入ってくる原料は非常に少ない。”シェットランド”という商標で売られているものはいくつもありますが、それはオーストラリア羊毛に英国羊毛を少し混ぜたものなんですね。シェットランド諸島で育った羊から採った、”本物の”シェットランドウールでいえば、日本では僕が知っている中では扱っているのは2社だけです。そのうち一社は関東にあるんですが量が限られているので毎シーズン決まった取引先にしか出していません。もう一社は名古屋にありますが原毛の状態で持っているので別注で紡ぐ必要がある。そこでMARKAWAREでは後者の形をとり、糸から生地に仕上げています。
秋冬ではウールのTシャツを作っていますが、このTシャツにはニュージーランド産のメリノウールを使っています。理由はチクチク感無くさらっとした風合いの良い物を使う必要があるからです。このように、それぞれのアイテムに対して理由付けとこだわりを持って素材を選ぶようにして、糸を作るところから取り組んでいます。
コットンもだいぶオーガニックに振れてきていて、いろいろなところから取り寄せています。綿産地での農薬被害軽減と雇用拡大に動くプロジェクトで生産されたもの、日本人の人がインドの紡績会社と組んで生産者支援をしながらつくるもの、アメリカで超長綿を有機栽培で育てたものなど。
良い原料や、オーガニックということにこだわって素材を選んでいますが、僕らはファッションとしてそれを表現する必要があります。洋服の原料となる綿や毛は海外からの輸入に頼らざるを得ないのですが、その先の工程はなるべく日本の工場さんでと思っています。例えば色をつける染工場では化学的な染料を使用しています。これはファッションとしてやっていく以上、きちんとした色出しをしていく必要があるからです。
日本の染工場では、工場の面積と同じくらいの広さの排水処理場を持っています。そこで染めたあとの排水をきちんと浄化しているんです。法律で定められた環境基準は厳しいものですが、これをクリアしているきちんとした工場さんにお願いしているというわけです。これは、原料をオーガニックにこだわることと同様に環境への配慮という点で重要なことです。そうしたきちんとした工場さんで作っているということが洋服になったあとでもきちんとわかるよう、トレーサビリティーの考えにもとづいて、原料はどこのもの、工場はどこで、といったことがきちんと分かるように明記しています。これもMARKAWAREの特徴のひとつですね。
僕が思っているものづくりとは、こうして原料からこだわって、中間にあたる工場さんともしっかりと取り組んでいくということをやり、その結果、ファッションとして成り立つ範囲ギリギリのシンプルな洋服になっていくことが理想なんです。
もちろん縫製にもこだわりを持つ。スーツならここ、シャツならここ、シャツの中でもカジュアルならこの工場さん、と、それぞれの得意なことや持っている技術で、一緒に服作りをしてくださるところと組んでいくということをしています。
というのも、メンズの洋服にはルールがたくさんあると思っているんです。ここの縫い方はこうでないといけない、というルールがいくつもあって、それを守りながらもアレンジを加えていくところにメンズの面白さがあると思っています。例えばシャツでデザイン性を追求するためや効率化のためにロック片倒しという簡易的な縫い方でいいということは絶対に許せなくて、そういうシャツでもきちんと折り伏せで縫うにはどういうパターンにすればできるのか、そのギリギリの曲線を計算して追求することがメンズの洋服作りとしては重要な部分だと思っているので、そこはこだわりを持ってやっています。
デザインの要素としては、先ほどお話したとおりのシンプルさを追求していく方向ですが、ひとつエッセンスとして「和」のムードを取り入れています。これは2016SSのシーズンあたりから自分のオリジンとしての日本らしさを洋服の中に取り入れたいという考えがあり、欧米のオーセンティックな洋服のなかにどう入れるかということに留意しています。具体的には襟周りの直線的なラインや、パンツの線の出し方を変えていくなど、シャツジャケットやウールで作ったデニムといったところに現れています。
このように、2016秋冬では、洋服としてトータルのコーディネートとして洗練されていることも大事ですが、それよりもモノの一点一点がどうしたら完成度の高い洋服になっていくかを重視し、素材へのこだわりを今までよりもさらに強めた、天然素材が中心のコレクションになっています。ぜひ、袖を通していただいて肌で感じていただきたいと思います。
Text : Tsuzumi Toyama