石川:「日本らしい洋服の表現」ということを、今年の春夏向けに洋服を作るときに考えていました。その一例として今季のコレクションで多用した素材が「和紙」です。
ー 「和紙」を原料として、それがニット生地になっているあたりが面白いと思いました。
石川:この生地では王子ファイバーが開発した和紙の糸「OJO+(オージョ)」を使用しているのですが、その成り立ちも興味深いものです。原料はエクアドル産のマニラ麻。3年草で5〜6メートルも伸びる植物です。現地では野生化してどんどん育っている場所もあるという、無農薬の循環型資源です。
石川:このマニラ麻を紙にしたうえで、細く切ってテープを作り、こよりのように撚ることで糸にします。糸の中に隙間が多く生まれることで、麻が本来持っている吸汗性や速乾性をさらに高めているのです。繊維の硬さからくる肌離れの良さも涼しさを感じる特性の一つですね。また、軽くて丈夫であることもポイントです。これらの特徴は、温度、湿度の高い日本の夏という気候条件にとてもマッチしています。
— 袖に腕を通してみると「着ている方が涼しい」と感じるくらいの着用感でした。
石川:ただし、この糸を生地にするには難しさもありました。丈夫ではあるのですが固くて伸びにくいのです。シャトル織機の機屋さん、シャツ地工場、ニッターさんなどいくつもの工場にお願いして試作を繰り返し、やっと納得のいく生地になったのがカネキチ工業さんの吊り編み機で低速で編んだ生地でした。
石川:ご存知かもしれませんが、吊り編み機では一般的な編機と異なり糸にテンションをかけて引っ張る必要がありません。糸を引っ張ることなく編んでいきます。そのため、手編みに近い膨らみ感のある豊かな風合いを持つ生地に編み上がります。ただし、現在では吊り編み機のある工場は少なく、また編むのにも時間がかかります。
ー こだわりのあるスウェット生地でよくこの吊り編み機が使われますよね。
石川:そうです。しかし紙の糸100%で生地を編むのはカネキチ工業さんでも初めての試みではないかとのことでした。この、出来あがった生地を使い夏らしいカーディガンを作りました。和紙で編んだニットという日本的な素材ですから、日本の羽織をイメージした直線的な構成のカーディガンとなっています。
石川:特徴的な部分は前合わせです。フロントにはボタンをつけず、本来は帯で留めるイメージですが、帯は省略しています。光沢があり、風合い豊かな生地が描く優雅なドレープに高級感が生まれました。
— 糸自体に隙間があり通気性が高いということでしたが、生地としてもスケ感があり、ルックスもとても涼しげですね。
石川:肌離れがよく、湿度の高い日でもとても涼しく過ごすことができますよ。陽射しを避ける羽織りものとしても、これからの季節が旬のカーディガンです。同生地で仕立てたTシャツも好評です。
Text : Tsuzumi Toyama