すでにデリバリーを開始しているMARKAWARE 2016 S/S Collection。「カーキ」という言葉をテーマに設定したコレクションは、この季節らしい素材感と、リラックスしつつもMARKAWAREらしく洗練されたシルエットを提案。その製作の背景を、デザイナー石川俊介が語ります。
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2016年の春夏コレクションのテーマである「カーキ」。この言葉をキーワードに設定したことにはいくつか意味があります。まずは色味としてのカーキ。いままでブランドとしてはオリーブがかった色味を採ることが多かったのですが、この数年はコレクションの中に必ずベージュ系の色を入れてきたこともあり、今季はベージュに近いカーキを意識して洋服作りをしています。
また、ブルース・チャトウィンの著作で描かれるアルジェリアや、モロッコ、チュニジアなど北アフリカの国々への憧憬から、第二次世界大戦期の北アフリカ戦線も連想してイメージを膨らませました。いままでMARKAWAREでは米軍のミリタリーウェアを取り上げてきましたが、春夏のミリタリーとしてベトナム戦争は何度もやってきたので、今季は北アフリカ戦線期のイギリス軍に焦点を当てました。
さらに、1940年代の北アフリカには、イギリス軍やフランスからの入植者、そしてネイティブのトゥアレグ族やベルベル人がいました。それらの人々の装いや、彼らのエスニックなテイストをエッセンスとして取り入れています。
具体的なアイテムとしては、イギリス軍の、特に陸戦系の古着です。入植者が着ていたような綿麻素材のジャケットや砂漠の砂埃から身を守るダスターコート。色ではラクダのイメージからキャメルや、トゥアレグ族を彷彿とさせるインディゴといったものが入ります。
もうひとつ、シーズンテーマを決める前の段階から考えていたことがあり、日本風の要素を取り入れていることも、今季の洋服作りのポイントです。
近年、デザイナーが自らの民族性をデザインに取り入れた洋服を打ち出している例をいくつか見るにつけ、自らのエスニシティーを表現した洋服作りの必要性を感じていました。海外デザイナーのジャポニズム的な表現に勇気づけられたこともその理由のひとつですが、今季は特に日本らしい洋服の表現を考えながらデザインしています。
わかりやすい一例として、素材には和紙を多用しております。また、パターンも今までカーブを多用していたところに直線的なパターンを取り入れてました。直線的なパターンで構成される服というと、日本の「きもの」が代表的ですが、そこまで和のテイストに寄せることはせず、あくまでも洋服でありながら和風な作りを感じさせる要素を差し込むイメージです。象徴的なアイテムとしては和紙を吊り編み機で編んだカーディガンがあります。直線による構築的なラインでスッキリと作ることができましたし、紙という素材は涼しく着られて日本の夏に非常にマッチします。
今シーズンのコレクションのために作った洋服で象徴的なものをいくつか挙げるとしたら、ミリタリーではサファリジャケットや、ロングシャツ、 グルカパンツ。これらのアイテムに帯と呼んだほうがしっくりきそうな太めのベルトをつけ、日本らしくアレンジしました。
フランスからの入植者のイメージでは大きいポケットのついたダスターコートや、一枚仕立てで白のワークテイストの綿麻のジャケットなど。テーラードのアイテムもフランスを意識したドロップショルダーなど柔和なニュアンスで作りました。
トゥアレグ族から想起したシャンブレーシャツ、リネンの太番手の糸で織った、デニムライクな生地を用いた着丈が長いガウンのようなコートもあります。
ルック全体を見ていただくと太いボトムスが多いと感じるかもしれませんが、今季は意図的にリラックスしたシルエット感で洋服を作りました。トップス、ボトムスのシルエットにコントラストをつけるのではなく、全身をゆったりと包むというイメージで、太めのベルトやタックインにより高めのウエストマークをつけるという提案です。
いままで述ベたような今季のテーマに即したアイテムのほか、今までのシーズンで好評をいただいていたL2Bやジャングルファティーグ、エプロンポケットシャツなどのアイテムも継続して展開しています。また、オーガニック素材を意識的に取り入れることや、産地、工場までをタグに明記するトレーサビリティーという取り組みも継続しています。
カーキという色を中心に、春夏の素材感と、MARKAWAREらしい洗練させたシルエットの提案を盛り込んだコレクションになっています。ぜひ袖を通してお楽しみください。
styling : Tsuyoshi Nimura / photo : Jun Okada / edit : Tsuzumi Aoyama