「今季は特別なキーワード、テーマを設けずに、MARKAWAREの原点に立ち返ることを意識しました」とデザイナー石川俊介が語る、MARKAWARE 2015秋冬コレクション。得意とするミリタリーは残しながら、「よい素材、よい縫製でちゃんと作られた綺麗な洋服のため、素材作りからしっかりと取り組みました」との言葉通り、それぞれのアイテムは上品さをたたえた仕上がりになっています。
コートはコート専門の工場で縫製を。フラノウールの生地はSuper 120Sの原料から。人気のエプロンポケットシャツは新型が登場。フィッシャーマンセーターは本物のシェットランドウールを国内で紡績してヘビーウェイトに。オーガニック、トレーサビリティーへの取り組みも継続。丁寧なものづくりを進める一方で、ドロップショルダーやビッグサイズといった、シルエットによる遊びも差し込み、いまのモダンな空気感にも繋がるリラックスしたテイストを取り入れています。
ブランドから着こなしを提案するルックブックは、前シーズン同様、スタイリスト二村毅さんとフォトグラファー岡田潤さん。このコーナーでは、すべてのルックについてスタイリスト二村毅さんに解説していただきます。都会的で品がよく、それでいてストイックなだけではない洒脱なたたずまいとなるスタイリングの妙味。二村さんの語りとともにお楽しみください。
— では、さっそくですが一体目のコーディネートです。
二村:このコーディネートに限らないんですが、今回のルックを作っていくにあたり前段階の話として、シャツを使った冬の着こなしに対して、シャツを着ない場合にどうVゾーンや洋服の組み合といったベースを作るか、さらにどうその上からコートを羽織るのが良いのだろうかということを考えていたんです。石川さんとも、シャツを使わない=タートルネックやセーターをMARKAWAREなりに着たらどうなるだろうという提案性を含めて、今回のルックブックを作ってみましょうか、という話があったんですよ。
― 今回のスタイリングのテーマですね。
二村:で、このコーディネートというのは、その典型的な例ですね。今回のコレクションの中心になってくるアイテムに畦編みのセーターがあるんです。クルーネックとタートルネック、それからハイネックの三種類ですね。これがスタイリングの中心になるということで、最初はやはりセーターからいきましょうと。そのときのコートとの合わせとしては、これくらいのローゲージのセーターにはこれくらいの厚みのコートがちょうどいいなと。また、このコートの肩の落ち感がすごく綺麗で、僕としてはぜひトップに出したいなと。それを自分で着るんだったらどうだろうなと思った時に、やはり色合いはネイビーのグラデーションがいいな、白いスニーカーで爽やかに抜くだろうな、と考えました。こんな人が冬の最初とか秋口に歩いていたらカッコいいなと思って作ったコーディネートですね。
石川:このコートは展示会でも非常に人気があったアイテムなんです。色もネイビーが一番人気でしたね。
二村:このコートは本当に綺麗だと思います。裏地もついていないんですよね。フラノの一枚仕立てで風合いはライトなんですが、それでいて繊細すぎずどっしりとしたところもあって。でも柔らかい。とても良いコートだなと思いました。トーンやアイテムの合わせ次第で上品にも着られるし、ショップコートみたいにカジュアル寄りな着こなしにも使えるし。羽織りもの的な感覚のコートとしては最高ですね。コートを着込んでいるガシっという感じもないんですよ。丈感も長すぎず、でもジャケットよりは長い程よいバランスで、完成度が高いと思います。
石川:このコートはメルトンなんですが原料にとにかく良いものを使い、柔らかく、オチ感が出るように仕上げた生地です。
二村:メルトンというとヘヴィーアウターのイメージが強いんですが、そういうニュアンスではなくてソフトな感じなんですよね。といいつつボリューム感があって、暖かそうでもあります。
— ジップが面白い位置についていますね。サイドにオフセットしていて。
二村:ジップは目をひきますね。ハードに見えます。そのわりに全体のニュアンスとしては丸みがある。ハードとソフトのバランスがすごく良いコートだなと思いました。また、今回は色のバランスで出すものも変えていったんですが、このグリーンがかったカーキはすごく良い色出しをされているなと感じました。今回のルックづくりでは一体一体に凝った着こなしを考えるというより、特にコートの着こなしはポスト・シャツというところから発想しているので、けっこうフォーマットは似ているかもしれません。インナーはニットのタートルネック。コートがデザイン性を強調するルックスなので、かっちりした印象を抜きたいなとパンツにはスポーティーさを出すためにリブ編みのウールのパンツを選びました。
二村:これが今シーズンの新型トレンチコートですね。
石川:今回のモデルは長身なのでヒザ下丈に見えますが、実はマキシ丈くらいのバランスで作ってるので、僕らが着るとスネの下まで来るくらいのサイジングです。
二村:ダブルのこういうコートにありがちな、ハードなディテールを取り除いて作っているのかなという感じがします。トレンチコートはもともとミリタリーの洋服ですから出自としてハードな背景があるわけですが、このMARKAWAREの今シーズンのトレンチを着ると、意外にサラっとしている。優しいトレンチコートなんですよ。そこで、こういうトーンの柔らかいグラデーションでコーディネートすることにしました。
— 春夏のコレクションではジャングルファティーグやM-65をビッグシルエットで提案して好評だったそうですが、秋冬ではシルエットは変わっているんですか?
石川:少しいじっています。気になったところをブラッシュアップしてはいますが、春夏で好評だったリラックスシルエットのミリタリーのシリーズとして考えています。
二村:これはすごく好きですね。いくつかの色のボトムスとあわせたんです。最初はベージュだったかな。ただ、そうすると軍モノ感が非常に強かった。そこでネイビーと合わせてみたらかなり都会的で洗練された感じになりました。ネイビーのトーンでつくるコーディネートの上にオリーブのM-65を羽織る。非常にスタイリッシュですね。トップスがハードな分、ボトムスはスポーティーなリブつきのパンツ。スニーカーもボトムスと色を合わせて同じトーンに。
二村:横からみた時のAラインのシルエットが独特です。でも突飛という感じはうけませんね。リラックス感があり、個性的で、非常によいプロダクトだと思います。
— 先ほどのルックとセットアップになるボトムスと、セーターのコーディネートですね。
二村:例えば秋口にはセーター一枚だったりトレーナー一枚で歩いたりするじゃないですか。僕もそうなんですけど。今季のMARKAWAREは良いセーターがたくさんあるのにアウターで隠してしまってばかりではもったいない、ということで秋口向けのライトな着こなしの提案です。グレーのセーターというのは、僕は毎年決まって欲しくなるアイテムなんですが、このセーターは肩の切り返しや首回りの形状、リブなど細部に至るまで非常に綺麗なバランスなので、欲しいと思いました。こういう、よくデザインされた、それでいてシンプルなセーターをシックスポケットの細身のカーゴパンツと合わせたら、ポスト・アメカジとしても非常にオシャレだなということでの提案です。
二村:非常に綺麗な写真ですね。現場でもおお、と声が漏れた一枚です。そんな裏話はさておき、MARKAWAREの洋服というものは現代的で着やすい洋服だと僕は思っています。そのMARKAWAREの洋服のモダンな見え方というのは、ヘリテージ(遺産)というかひとつの洋服が歴史的に積み重ねてきた変遷や磨き上げられてきた一つ一つのディテールといった要素を現代的にリミックスするうまさと言い換えることもできると思います。そんなモダンな洋服を着た人たちがルックとして並んだ時に、そのはざまにゴージャスなものではなくて、こういう品のいいドライフラワーのようなものをミックスした生活をしていたら素敵だなという気分から、この写真を差し込んでいます。
二村:LOOK 3では前を開いて着せていたコートの色違いです。このスタイルは僕の憧れですね。ベージュのチノパンにこういうコートをサラっと羽織る。無難に着るとしたら黒のパンツになるんでしょうね。ただ、こういうワントーンのキャメルの色合いもいいと思います。ユニフォームが僕は好きなので、軍のコヨーテ―カラーとかカッコいいなって思うんですがちょっと無骨ですよね。でもこういうコートでワントーンにするんだったらハードさが中和され、スタイリッシュになると思って組みました。
石川:キャメルは難しいんですよ、なかなかいい色が出なくて。ただ、今回についてはいい色にできたと思います。展示会でもネイビーに続く人気のカラーでした。キャメルのトップスというのは得てしてバイヤーさんの反応が鈍いものなのですが、今シーズンは非常に評判が良かったですね。
二村:そうですよね。どちらかと言うと濃色を買ってしまいがち。
石川:ベージュやキャメルのトップスというのは非常にオシャレな色だと思いますし、今シーズンは色のトレンドに変化があるかもしれません。キャメル、ベージュはネイビーとあわせてもカッコいいですし、白をあわせると本当に綺麗なので、実はワードローブに一枚あると非常に使い勝手がいいと思いますよ。
<一回目ここまで。次回に続きます>
Text : Tsuzumi Aoyama