千葉県市原市のカットソー縫製工場「パウルニット」を訪れました。こちらは創業28年、カットソー工場としては珍しく主にメンズ商品を手がけ、そのクオリティの高さで多くのブランドの信用をあつめている優秀な工場。打ち合わせにさきがけて、代表取締役の成谷玄さんに工場を案内していただきました。
工場の奥は広い作業台が並ぶ裁断場。生地を前にひとり裁断作業をしているのは、工場長の佐瀬光輝さんです。
「弊社では創業から28年のあいだヴィンテージのアメカジの商品製作に取り組んできました。特にカットソー素材を使用したカジュアルのアイテムの縫製には多くのノウハウを蓄積しています。また、生地の手配、確保、さらに加工といった面でも長年の積み重ねによるコネクションをもとに、こちらから洋服のブランドさんに“こういったことができますよ、こういう生地が使えますよ”という提案もさせていただいています。また、一番の武器は主にヴィンテージのスウェットなどの縫製に使われるフラットシーマーですね。この技術には特に多くのノウハウを持っていると自負しています」と成谷さん。
縫製作業場では、20台以上のミシンがたてるリズミカルな音が響いています。
そして、「パウルニット」が誇るフラットシーマーの技術をささえるのが下写真のミシン。ユニオンスペシャルの四本針ミシンです。このミシンは、ユニオンスペシャル社によって1960年代に開発された特殊ミシン。4本の針糸と1本の下糸+1本の飾り糸の合計6本の糸によって、生地の端を付き合わせるように縫え、縫い目がフラットになります。この縫い目がフラットになるということは、もともと莫大小(メリヤス)と呼ばれる下着であったカットソーには着心地の良さと強度を高めるという点で、重要な縫製技術でした。かつては東京の台東区などに多数のメリヤス屋さんが存在し、フラットシーマーを中心としたミシンを何台か並べた莫大小の工場が沢山あったといいます。しかし、今はこのフラットシーマーを持つ工場もかなり少なくなり、あわせて技術者の数も減ってしまっています。
また、縫製を行う部位により使用するミシンを細かく使い分けています。次の写真で使用しているミシンは、ヴィンテージのスウェットやパーカに見られる製法である、袖口から袖まわりまでを一気に縫いあげられる、ペガサスミシンの細筒型扁平縫い3本針、FW603FB-UTです。 通常のミシンでは布を載せるベッド部分が広い台になっていますが、このミシンでは細筒型になっています。つまり、袖をすっぽりとかぶせるように縫えるというわけ。もちろん、このミシンさえあればというわけにはいかず、使う素材や糸の番手により、針交換や糸調子という一般的な調整はもちろんのこと、贈り場や張り板などパーツの微調整を施す必要があります。ここでパウルニットの蓄積された経験とお針子さんの熟練の手仕事が活きてきます。
縫製現場を確認したのち、生地のサンプル、糸の見本といった資料とともに、サンプル縫製中であったUTILITY GARMENTSのTシャツのディテールをデザイナー石川をはじめとした生産チームと検討。日本でものづくりを行うことは、クオリティの高さを確保できるというメリットはもちろんですが、こうして顔を合わせて打ち合わせを重ねることができる点も大きなアドバンテージです。仕上がりをお楽しみに。
パウルニット
所在地:千葉県市原市相川388
創立年月日:1986年12月18日
従業員数:20名
Photo & Text : Tsuzumi Aoyama