週末にPARKINGでコーヒーをサーブしている、ロースティングディレクターの村井達哉。彼の工房をデザイナー石川俊介が訪問しました。生豆の状態で入荷したコーヒー豆を高温で焙煎する「ロースト」の工程は、コーヒーの味を決める重要な工程です。先日公開した1回目で投入したグリーンの豆も、ローストマシンの中でいよいよパチパチと爆ぜはじめました。
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石川:僕が海外で視察してきたサードウェーブのロースターさんたちが、回っているローストマシンの前に腰掛けて談笑していたりする光景はリラックスしていて良いなと感じたものですが、いまもこうして村井さんとお話をさせていただいているように、あまりローストマシンとにらめっこをしているという感じではないんですね。
村井:タイミングにもよるんですが、今はお話をしていて大丈夫です。ローストをしているときにはあまりガッツリと全神経を傾けて集中する、というよりも全体の状況を五感で捉えているので。今回はすでにプロファイルが充分な完成度に達しているローストなので、基本的にはマシンがやってくれるという意識です。あ、いまファーストクラップがきましたよ。
石川:豆の爆ぜる音がはっきり聞こえますね。いよいよ仕あがりですか。
村井:焙煎が仕あがったら、あとは前のパネルをあけて下の冷却台に排出します。仕あがりのタイミングは、そのときの温度、それまでの温度の推移を総合的に考えて決めています。たとえば最終的なプロセスで温度がほんの少し低めに進行しているのであれば、炒り上がりを数秒遅く終えるようにしますし、逆に温度が高すぎれば早めに出します。そこは経験から判断します。時間と温度だけで決め打ちするほうがもちろん楽なんですが、そうするとマウスフィールがおかしな珈琲になりがちなんですよね。なので、そこは丁寧にやらないといけません。
石川:生の豆に熱を入れていくことがローストですから、やはり完全にマニュアル化できるというものでもなく、熟練のロースターの感覚と技が必要とされる部分はありますよね。また、その部分にこそロースターそれぞれの個性があらわれるものだと思いますし。
村井:釜が常に無機的に動いてくれるのであれば、半年や1年トレーニングすれば誰でも焙煎機の操作はできるようになります。ただし、釜のリズムが崩れたときにどうやって収めるのかというところでスキルが問われますね。どんな機械であっても有機的なゆらぎをもっているので。
石川:車でタイヤがグリップを失ったときに、どうやってコントロールするのかというところにも似ていますね(笑)。
村井:そうです。どんなことでもそうですよね、うまく行かないときこそプロの技量の見せどころです(笑)。では、次の豆を入れますね。
石川:さっきローストした豆を出したばかりですが、もう次の豆を入れてしまうんですね。
村井:1バッチ目のローストによる余熱をいかして2バッチ目以降を進めます。毎回余熱を除いてゼロリセットして、暖気した状態まで戻してから2バッチ目を行うやり方もあるんですけどね。
石川:それは、とても丁寧なやり方だとは思いますが、実際にその方法で進めるとすごく時間がかかるでしょう。
村井:昔はそれでやっていたんです。でも、連続したバッチの1バッチ目よりも、2バッチ目のほうがおいしいというときがあったんですよ。良いコンディションを安定的に作り出せるスキルがあれば、時間も早いほうがいいでしょうという考え方ですね。ちなみに、いまの時点でセンサーが160度と表示されていますが、先程のプロファイルと見比べると同じタイミングで1.5度高いんです。そこで、火力をかえるタイミングを10秒遅らせます。
石川:わずか1度の違いでも影響するんですね。
村井:同じ火力のなかに豆を投入して、210度なら210度まで釜の温度があがったら焙煎は終わり、というやり方もあります。全くの間違いではないと思いますが、それだと少し出てくる結果は雑なものになると思います。僕のローストのスタイルでは、狙っている味わいのかたちのためのアクションとして、温度変化をあたえていくというものを考えています。
― ローストが終わった豆は、手作業でエラーをチェックするんですね。
村井:どうしても不良豆は混在してしまいますからね。ただ、不良豆は抽出液に雑味が入ってしまう大きな要素のひとつなので、これは丹念に取り除かなければいけません。どんなに忙しくてもここは絶対に手を抜いてはいけない工程ですね。こうして、豆を入れる、温度のチェックをしながら豆を煎る、終わった豆をチェックする、この作業を繰り返すわけです。
石川:とても丁寧な仕事ぶりを拝見させていただき、ありがとうございました。PARKINGでも扱っているMoving Cloudなどのコーヒーが、入念にローストしていただけていることをあらためて確認することができました。
村井:こちらこそありがとうございました。土曜日のPARKINGでのコーヒーテーブルでも、引き続きよろしくお願いします。またいつでも遊びにいらしてください。
Composition & Text : Tsuzumi Aoyama