週末にPARKINGでコーヒーをサーブしている、ロースティングディレクターの村井達哉。彼の工房をデザイナー石川俊介が訪問しました。生豆の状態で入荷したコーヒー豆を高温で焙煎する「ロースト」の工程は、コーヒーの味を決める重要な工程です。浅めに煎れば飲み口がフレッシュに、深めに煎れば苦味のある飲み口になるという以上の奥深さがローストにはあります。重厚なローストマシンを目の前に、石川が次々と投げかける質問に、ロースター村井は明快に回答していきます。では、早速ですがふたりのトークをお楽しみください。
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石川:作業中にお邪魔してすみません。今日はよろしくお願いします。
村井:実は、今日はルーティン外のメインテナンスの必要があって、さっきまでマシンはバラバラだったんです(笑)。でも問題なく組み直すことができたので、ぜひローストしているところを見ていってください。
石川:ありがとうございます。フォーバレルコーヒーなどサードウェイブのロースターたちのお店を視察してきて感じたんですが、PROBATを使っているロースターさんはとても多いですね。
村井:僕も左のPROBATをメインのマシンとして使っています。右にある機械はサブ的に。PROBATの人気の理由としては、海外のロースターのなかでもレジェンドと呼ばれるような人たちがPROBATを使っているので、彼らへの憧れが強いのかもしれませんね。サンフランシスコあたりでは、1960年代のオールドプロバットをわざわざ探してきて使っているロースターも多いんですよ。僕が使っているこの2010年モデルでは、前の板が生産のむずかしい鋳造に戻ったんです。オールドプロバットの良さを取り戻すために変更されたポイントですね。
石川:この部分が鋳造になることで、どのようなメリットがあるんですか?
村井:釜の蓄熱性が比較的高くなり、内部温度が安定します。焙煎機には釜の内部温度をはかるためのセンサーが取り付けられていますが、この機種ではフロントパネルにつけられているように、釜のコンディションはフロントパネルのコンディションによって判断されるんです。僕は後付けのセンサーを他の箇所にも取りつけていて、総合的に釜のなかの様子をチェックするようにしていますが。
― 今はローストするための暖機運転中ですか?
村井:はい、熱を入れたり、休ませたりして釜の温度を動かしていくと、次第に温度変化が安定します。そこまで釜が全体的にしっかりあたたまってから最初のローストを始めます
― その温度管理は外の気温によっても変わるものですか?
村井:多少変わってきますね。それから、ここに差し込まれているスプーンを使ってローストをしながら香りのチェックもしますが、ここでチェックできるのはある程度初期の段階なんですね。1ハゼ、2ハゼ以降に豆が膨らんでガスがバーっと出てきてしまうと、もう香りって嗅ぎ分けられないんですよ。強すぎて。
石川:いろいろなローストのスタイルがあると思いますが、村井さんがこのスプーンを使ってチェックするのは香りだけですか?
村井:香りと、ローストしている豆の色や質感ですね。ですが、ローストが順調にいっているときにはあまり頻繁に抜かなくても問題ありません。ローストしながら温度プロファイルを記録していくんです。1分毎に、各センサーの温度と火力操作の内容をプロファイリングシートに記入するんですが、記入しながら前回のローストと同様に内部温度が推移しているかをチェックします。ときおり「釜が暴れる」と僕らは言うんですが、温度上昇が変化したり、同じ操作をしているのに釜のレスポンスが違うということが起きると、当然ローストの仕上がりも変わってくるので大問題です。さて、暖気も完了したので、そろそろローストを始めますね。一度にローストするのは、この量です。これで3kgあります。
石川:回転するドラムのなかで豆がシャリンシャリンと音を立てていますね。機械が動いている、という感じがします。豆をいれたあとは、焙煎機を直接操作したり、あれこれ覗いたりはしないんですね。
村井:注意してみるのは温度センサーの数字と、タイマー、さきほどのサンプルスプーンです。先ほどちょっとお見せしたプロファイルシートには1分毎の温度変化を記録するだけではなく、前のバッチとのつなぎ方も書いていて、ファーストクラップ(最初のハゼ)が何分何秒であったかということも記録します。ウチは中にセンサーを入れて数カ所を見ていますが、前釜の温度だけを赤外線の温度計でチェックしたり、オーブン用の温度計を貼っている人も多いですよね。
石川:オーブン用の温度計もだいぶいいかげんですけどね(笑)。赤外線できちんと測るとけっこう違ったりしますし。あれは、厳密に温度の絶対値を見ているというよりも、温度の変化を感覚で判断しているんでしょうね。
村井:リズムがありますからね。ウチも最初のローストの前の暖機には火力をほぼ全開に近い感じでぽーんと温めておいてから調節していくという感じです。だいたい準備をするのに45分程度かかるんですが、その間ただ見ているだけではなくて、45分のルーチンワークがあります。
石川:そのルーチンワークのなかでもその日の焙煎機のコンディションをチェックされているんでしょうね。こうやってお話をしている最中にも、ローストマシンからコーヒーの香りが漂ってきましたね。美味しそうな香りです。
<1回目ここまで。2回目に続きます>。
Composition & Text : Tsuzumi Aoyama