2002年に山と渓谷社より単行本が刊行され、2013年にヤマケイ文庫にて文庫化された関根秀樹の著作『縄文人になる! 縄文式生活技術教本』。本書は「火の起こし方」や「石のナイフの作り方」から「竪穴式住居の建築方法」に至るまで、縄文時代を生きた人間に備わっていた技能を広汎に紹介する一冊で、長年、国内のアウトドアカルチャーを支えてきた同社のラインナップの中でも異色の刊行物である。
紀元前145世紀(約16500年前)から紀元前10世紀(約3000年前)に至る縄文時代、日本列島で人々はいかにして生きてきたか――
「火」「石」「角」「土」「木」「衣」「食」「住」の8章で構成された本書では、豊富な写真とともに、縄文時代の生活方法を極めて実践的に解説している。
「石のナイフの作り方」では、石器原石の産地を地図で案内し、素材となる黒曜石などの入手方法を詳細に解説。その上で作り方の手順を詳しく説明しており、実作を前提とした非常に具体的で丁寧な内容となっている。
本書の冒頭、著者は「二一世紀がどんな時代になるか、それは誰にも予測がつかない。ただこれ以上、自然破壊や環境汚染が進み、文化の画一化が進めば、現代文明は遠からず自滅するだろう。いま、縄文人の知恵に学ぶことは、人類文化の『もうひとつの道』への扉を開く鍵になるかもしれない」と記している。(文庫版・p18)
現代文明を生きる我々にとって「縄文人の知恵」が、最も輝くのは何処だろうか。全編を通じ非常に実践的で実用性の高い本書だが、読者のライフスタイルにどれだけ“役に立つ本”として寄与できるかは、人類文化の「もうひとつの道」の解釈にかかっている。
本書が導く「もうひとつの道」とは、果たして素朴な自然回帰への道だろうか。私は違うと信じる。なぜなら、縄文の暮らしの具体例に満ちた本書を「現代文明から逃避するためのエコロジー生活本」として読む事を、非常に勿体なく感じるからである。
どの時代を生きた人間にとっても、当人が生きた瞬間は最新の歴史であった。それは縄文人も現代人も同じである。自然のすべてを可能性として捉え、ゼロから必要な物を拵えた縄文人。当時を生きた人間が考え抜き、現代文明では消え失せてしまった「縄文人の知恵」は、我々にとって多大なヒントとなるに違いない。二一世紀の現代を創意工夫を持って生きるため、最大限活用可能な「行動の一冊」として本書を勧めたい。
『縄文人になる! 縄文式生活技術教本』
関根秀樹/著 ヤマケイ文庫/800円
Text : Hiroyuki Motoori