洋服作りにはさまざまな工程があります。デザインはもちろんですが、生地選び(または生地作り)、さらに布の裁断から縫製、ボタンやジップなどの付属をつけて、アイロンを当てて形を定着させたり生地を落ち着かせる仕上げも必要です。
ブランド設立以来、日本での物づくりにこだわってきたMARKAWAREでは毎シーズン日本の優秀な職人さんたちや工場との密なやりとりを重ねています。(参考記事:「Artisan spilit – Visit to Bisyu Factories」)。その一端をご紹介するべく、生産管理の木村さんに、今シーズン力を注いだアイテムについてお話を伺いました。
木村:定番をブラッシュアップさせ続けているデニムやオックスフォードシャツをはじめ、生地作りからスタートする新作アイテムなど、毎シーズンいろいろな洋服を作っているなかで、優秀な日本の職人さんたちの技術にはいつも驚かされています。今季でいえば、鹿の子編みの生地で作ったコート、ジャケット、パンツ(フルレングスとショーツがあります)のシリーズでは「この工場でしか作れない」アイテムが生まれました。
— よくポロシャツで使われる鹿の子の生地ですか。表がネイビーで裏地がブルーとイエローがあるんですね。
木村:ダブルフェイスと呼んでいるのですが、番手違い、色違いの糸を使って編むことで一枚の生地でありながらも表と裏が色違いになっています。この生地の場合は表側の面を30番の糸でオーソドックスなネイビーに、カラダに触れる裏側の面は40番の糸(30番より40番のほうが細いんです)を使って着心地を向上させ、かつカラーを差しています。
— 一枚の生地なのに、裏地の色でオシャレができるというのも楽しいですね。
木村:しっかりした編みで上質さも申し分ないですね。春夏らしい軽さのある服に仕立てるために、縫製は東京の「バーンズファクトリー」さん(http://burns-factory.co.jp/)にお願いしました。
木村:こちらは糸を編んでニット生地を作るところから、裁断、縫製までを一貫して行うという珍しい体制をとっています。スピーディーに生産を進めることができますし、都内という立地なので密に打ち合わせをすることができるところも嬉しいです。
— 先ほどおっしゃっていた「この工場でしか作れない」というポイントはどこですか?
木村:それは、生地の縫い方です。「T.P.S」という特許を取っている特殊ミシンで縫製をおこなっています。通常、生地を縫い合わせるには2つの生地を重ねて、その2枚を糸(針)で貫いていくわけですが、「T.P.S.」では2つの生地をぴったりと付きあわせて縫いあげます。縫い目が平坦になりますし、縫い始末もきれいになるんです。もちろん着用時に縫い代のアタリがないので着心地もよくなりますね。
木村:Tシャツやスウェットで見られるフラットシーマという縫い方がありますが、T.P.S.はフラットシーマよりもさらに少ない針数で縫うことができるので、より平坦に、まるでもとから一枚の布だったかのように縫いあがるんです。針数が少ないことで強度が下がるのではと不安に感じるところですが、この点についてもまったく問題ありません。ジャケットの肩口などの曲線で構成される部分は、縫いあげることが非常に難しい部分ですが、「バーンズファクトリー」さんの優秀なお針子さんたちは高い技術力で見事に仕上げてくれました。
木村:ステッチワークは洋服のなかでデザイン上のアクセントになる場合が多くあります。デザイナーの石川(俊介)は、このダブルフェイス鹿の子のシリーズをシームレスなディテールで仕上げることで、洋服のデザインのなかに都会的な洗練されたニュアンスを注ぎこんでいます。大きな布に包まれているような独特の着用感は、袖を通してぜひ体験していただきたいと思います。
Composition : Tsuzumi Aoyama