デザイナーの石川俊介です。
前回、前々回と通じて、アメリカ西海岸の、自然と都市のほどよい距離感がもたらすおおらかさ、古くはヨセミテ、いまではコーヒーカルチャーから盛り上がる知的なエッセンス、そうしたものを今季の洋服に取り入れたいのだということをお話してきました。今回は、もっと洋服寄りのお話をさせていただき、2013SS春夏コレクションの解説の最終回としたいと思います。
MARKAWAREは継続して「道具としての上質さ」を追求していく洋服です。ここ数シーズン取り組んでいるシンプリシティという感覚についても少し考えてみると、その傾向は自分のなかでますます強まっています。
洋服は生活の中での道具であるという感覚はシーズンを重ねるごとに強くなっています。ファッション性=服のルックス的な面白みという部分でデザインを足してあげる必要はあると思いますが、道具として雰囲気のあるものにするにはどうすれば良いのか、そこはさらに追求したい。
どうすれば道具として上質になるのか。上質な道具というのは、どんな道具でも絶対に存在感やオーラがあると思うんです。では、それを作り出すにはどうすればいいのか。新品の状態から存在感は出せるのか? それとも人間が着て使っていかないと出ないのか? 縫製、素材、パターンにこだわればオーラは出るのか? このあたりをもっと考えたいですね。
究極的には、もっと洋服をシンプルにして、シンプルだけれど人が着たいと思うようなおのにするにはどうすればいいか。シーズン毎に洋服を作っていくのは、その答えを探す旅でもあるように感じています。
一つのヒントは機能性なのかもしれません。例えばある道具が生まれた背景、どうしてこの素材でないといけないのかというところを突き詰めてみる。例えばアウトドアのウエアやツールには、どうしてこうなっているのかという理由がありますよね。ミリタリーでもそうです。逆にファッションというフィルターを経ていない洋服は、ルックスと機能の繋がりが分かりやすいとも言えます。
しかし、テーラードジャケットも意味のある意匠の積み重ねでできている洋服です。表地があり、芯地があり、そして裏地があるわけですが、この芯地では毛芯が非常に大きな意味を持っています。
毛芯をきっちり仕込むことで、肉体のラインが崩れてしまったとしてもジャケットが男性の肉体をきちんと見えるように作られています。バストにボリュームを持たせて、洋服が体の美しいシルエットをキープしてくれる。それでいて着た人間の動作にスムースに布地が追随する。機能的で、奇を衒った装飾をされていないのに、道具として非常にスタイリッシュ。人間が創りだした究極の道具の一つと言えるのではないでしょうか。
対極的に労働者的なところではデニムの上下やシャンブレーシャツにも機能的な美しさを感じます。仕立て、パーツのひとつひとつにしっかりとした意味がある。こちらの場合は主に効率化のためにそうなっているということが多いのですが。目的は大量生産のため。ただし、これもタフな実用を繰り返すなかで磨き上げられてきた、本物ならではの輝きがあります。
洋服を道具として捉え、上質なものを作りたいという想いは、私なりに試行錯誤を繰り返した上でたどり着くものなのかもしれません。MARKAWAREの今季のコレクションでは、先に述べた「ワンダーフォーゲル」というテーマと並行して、素材への追求に力をいれています。
洋服のバリエーションとしては春夏物ではアウターを減らしてシャツ、カットソーを多めに作りこんでいます。特にシャツでは形を絞り込んで素材のバリエーションを多くしています。
例えば生地で言えばコットンの太番手でツイードのような生地を織ってみたもの、プリントも様々な手法を試しています。カットソーでもジャガード織りの裏毛を使ってみる、というところですね。
シンプルな中に西海岸のインテリジェンスを詰め込んだり、アウトドアで自然と触れ合う人々のリラックス感、そこに流れるおおらかさというものを、さまざまなディテールに落とし込んだコレクションになっているので、見て楽しんでいただけると思います。
なかには先ほどのコーヒーのロースターや、ヨセミテで出会ったバックパッカーなど、私が触れ合った人のパーソナリティーが出ている洋服もありますし、西海岸的なフラワーモチーフやスマイリーというアイコンが挿入される場合もあります。
ですから、今季を象徴するルック、というものはなかなかあげにくいところですね。逆に言えば、どういう洋服が人気があって、どういう着こなしをしていただけるか。着ていただく方との対話を私自身楽しみにしています。
Photo: Shunsuke Ishikawa
Text: Tsuzumi Aoyama