デザイナーの石川俊介です。
2013年春夏のコレクションについて思うところをお話していきます。デリバリーはまだまだ先なので気が早い話ではありますが、お付きあいください。
前回は、サンフランシスコで感じた都市とカントリーサイドでの生活、ということをキーに洋服を考えて2013春夏のコレクションに「ワンダーフォーゲル」というキーワードを当てたいというところまでお話ししました。
もとはワンダーフォーゲルというのはドイツの学生運動で「知を求めて野をさまよう」という、とても知的な自然回帰の傾向を持った学生たちの行動がルーツでした。
そしてサンフランシスコはビートニクをはじめとする世界に広がったユースカルチャーを発信してきた街でもあります。若い人たちが知識や刺激を求めて集まった象徴的な場所ですよね。
知的な街であるサンフランシスコに漂う大自然のムードは、ヨセミテの存在を抜きにして語れません。’60年代のビートニクがCAMP4をベースにして巨大な岩壁に挑んだ歴史は、インテリジェンスと自然のひとつの結節点ともいえるでしょう。
これを洋服として表現するのであれば、ワンダーフォーゲルという言葉で一般的にイメージされるようなアウトドアウェアではなく、アメリカンで西海岸的な要素を入れながら、知的なエッセンスはあまり外さないような洋服、というのが私なりの答えでした。
西海岸のコーヒーカルチャーが盛り上がっているという要素も気になりますね。ヒゲを生やしてチェックのシャツを着て腕まくり。チノやジーンズを履いて自転車に乗る、そういうスタイルの人間がロースターをやっている。フォーバレルコーヒーやブルーボトルコーヒーは有名ですよね。
日本でもコーヒーカルチャーが盛り上がっていますが、それを私なりにファッションに落としこんでいくと、アメリカが発信する都市型のファッションの中でも程良く肩の力が抜けたスタイルを感じます。知的で、ファッションコンシャスでもなく、それでいてスタイリッシュで非常に地に足がついているとでも言うのでしょうか。言ってみれば作業着ですから。コーヒー豆をローストしてサーブする、お店で働くための洋服です。
知的なエッセンスを感じさせる彼らのスタイルに、ビートニクから伝わるワンダーフォーゲルのアウトドア的な要素を洋服で表現すると、自分としても納得がいく洋服が作れるのではと考えたのが今季のコレクションです。
次回は、その服作りの過程で考えたことをお話してみようと思います。
Photo: Shunsuke Ishikawa
Text: Tsuzumi Aoyama