PARKING COFFEE × CACAO WORKSで取り扱っているチョコレートは自家焙煎のカカオ豆による手作りのチョコレート。なぜ、いまチョコレートなのか。チョコレートの面白さや奥深さはどういう部分にあるのか。どうしてコーヒーショップでチョコレートを製造しているのか。PARKING COFFEE × CACAO WORKS でチョコレートを担当する朝日将人に語ってもらいました。
― どうしてチョコレート作りを始めたのですか?
朝日:スペシャルティーコーヒーのスタートに近いです。良質なカカオ豆が手に入り、チョコレートに仕上げたらおいしかった、が始まりです。ワインの文化があり、それに習ったコーヒーの文化があって、カカオも追いかけ始めた、という印象です。
― 苦味のあるコーヒーには甘みのあるチョコレートが合いますよ、ということではないんですね。
朝日:一般的には相性が良いと言われています。しかし、このチョコレートはカカオの味わいが強く、コーヒーに合わせるにはアンバランスなことは否めません。ミルクを加えたカプチーノに合わせるか、いまの季節でしたカカオジェラートをコーヒーと一緒に楽しむかというのがオススメです。
ちなみにカカオとコーヒーは、ほぼ共通の産地で収穫されます。しかし、同時に楽しめるのはまだまだ贅沢なことなのです。というのも、産地は熱帯または亜熱帯に位置するため、気候の関係で産地での製造は難しい。そして、カカオ豆からチョコレートを作るためには設備の整った工場も必要です。
現在、すこし工夫をすることでもっと自由にチョコレートを作る人々が出現しています。さらに少ないですが、スペシャルティーコーヒーのような原料のクオリティでチョコレートの作り手が育っています。新しい分野のはじまりに身を置くことは心躍る機会です。理由としてはこれで十分ですね。
― 実際に食べさせてもらいましたが、香り、味わいという部分の強烈さに驚きました。コーヒーの味が薄く感じるような。
朝日:ストレートのコーヒーは、負けてしまいがちですね。ワインの評価項目に、味わいの強さがありますが、ワインとこのチョコレートにも強度に大きな開きがあるのです。あわせるのはデザートワインや蒸留酒のようなハードリカー系が良いでしょうね。味わいや食べるシーンの提案も含めて、これから掘り下げていく部分です。まずは製造方法を研究したいですね。
― いま作っているものが完成形ではない、とお考えですか?
もちろんです。カカオは長い歴史を持っています。シンプルな方法からはじめ、どういう面白味があるかはこれから試す部分です。その過程も含めて楽しんで貰えたら嬉しいですね。僕はスペシャルティコーヒーの草創には立ち会っていません。Bean to Bar チョコレートは、今まさに拡がっています。意識するか否かを別にして、誰もがその変化の渦中にあるわけです。これを見逃す手はありません。
― アメリカのマストブラザーズを筆頭に、いま世界のチョコレート屋さんで面白さを感じさせるところでは、ともに共通するのは男っぽさですね 。
朝日:開拓者の趣きでしょうか。ロンドンにロースト&コンチというバイコンセプトショップがあります。コーヒースタンドであり、チョコレートスタンドでもある店舗で、コーヒーとチョコレートを等価なものとして扱っています。スペシャリティコーヒーがトレーサビリティを担保するように、チョコレートも原料の調達を含め、製造工程をオープンにしています。メニューボードは象徴的で、「Chocolate vs Coffee」と題されています。世界中に自家焙煎のコーヒーショップは珍しくもありません。そんなレベルまでチョコレートの価値を持っていくのが理想です。
― 「甘いものに癒されたい」というこれまでのチョコレート観からは出てこない発想かもしれません。
朝日:コーヒーショップがカカオを焙いたらこうなりました、というチョコレートですね。NYのマストブラザーズもショコラティエ出身ではない点では同じです。ヒゲのおじさん二人が作って友達に配っていたものが評判を呼び、いまや世界的に知られるチョコレートショップになりました。Bean to Barチョコレートは異業種からの参入組が多いですね。これからますます増えそうです。
― コーヒー同様、原材料のカカオ豆があって、産地によってすごく豆の味わいが違うと。その味わいの違いがチョコレートという食べ物にダイレクトに現れる。コーヒーやワインのように語る深みがあって面白みを感じる嗜好品ですね。
朝日:カカオはコーヒーほど生産体系が確立されていない様子です。しかし、産地に住み込み、現地の農家とともに働いて良質なカカオを収穫・処理をする。また、生産者までトレーサビリティが担保されたカカオを供給する活動がはじまっています。品質を上げて付加価値を与え、市場価格を満足できるレベルに引き上げる。20年前にコーヒーがたどった道です。5年で同じところまで行きたいですね。
― 新しく生まれるカルチャーの証人になるという体験は、なかなかできるものではないですよね。
朝日:トレンドが目まぐるしく盛衰する時代です。新しいものは珍しくもないのかも知れません。その中で、挑みがいのある仕事に出会えていることは幸せです。食べる側の方にとっても試行錯誤の過程を見ていくこと、体験していくことは面白い体験になると思います。まずは一度、食べてみていただくことが一番ですね。お店でお待ちしております。
Photo & Composition : Tsuzumi Aoyama