世界でもっともカッコいい男といわれる、マイクル・ファスベンダーが被り物をする!?
前情報なしで観たら、かなり感動した。ものすごくエッジの効いたカッコいい映画だ。大傑作『あの頃、ペニー・レインと』に匹敵する、バンドを描く作品。日本のバンド、SEKAI NO OWARIのピエロのお面を被っているDJ LOVEが被り物をずっと放さないと思っていただければいい。
映画の主人公はミュージシャンになることを夢見て、曲づくりに励むイギリス人青年、ジョン(ドナルド・グリーソン)。彼は、入水自殺騒ぎを起こしたキーボード奏者に代わって、インディバンド「ソロンフォルプス」のライヴに飛び入りで参加する。ステージで彼が遭遇したのは、張りぼてのマスクを被るフロントマン、フランク(マイクル・ファスベンダー)。一癖も二癖もあるメンバーたちが演奏するのは、オルタナティブ・ミュージック。ライヴも終わり、一度はもとの会社員生活に戻ったジョンだったが、バンドに呼び戻され、アイルランドでのレコーディングに帯同する。
人里離れた湖畔の小屋で、新しいアルバムのレコーディングが始まった。寝るときも、食事をするときも、マスクを被り、絶対に素顔を見せないフランクは、アメリカ・カンザス州出身という以外、その正体は謎に包まれている。「曲づくりのテーマが見つからない」としょげている主人公のジョンはフランクに勇気づけられ、時にエキセントリックで、クリエイティブなフランクに心酔していく。やがてインターネットにアップした動画がセンセーションを巻き起こし、彼らはアメリカ州テキサス州オースティンで開催される世界最大の音楽コンベンション「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」から招聘される……。
このバンドの演奏がすばらしい。全曲生収録されているため(実際に彼らの演奏らしい)、音楽とドラマが完全に一体化しているのだ。もしも、彼らソロンフォルブスが来日したら、絶対に観てみたい!
監督は、『アダムとポール』(04年)や『ジョジーの修理工場』(07年)のレニー・アブラハムソン。脚本は、『ヤギと男と男と壁と』(09年)のジョン・ロンスンとピーター・ストローハンのコンビによるペン。音楽を担当したのはアイルランドのダブリンを拠点とするスティーヴン・レニックス。全曲がとても親しみやすい曲で、撮影に入る前からキャストに練習させたのだという。前衛的すぎず、メインストリームでない「ソロンフォルブス」の立ち位置を表現しているのが、最高だ。
被り物をしているからこそ、自分でいられる男の物語。僕らはこの映画を通じて、彼らの心の内側に迫ることができる。これはどこまでも、ほろ苦く、心を揺さぶる物語なのである。
10/4(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷 他公開
© 2013 EP Frank Limited, Channel Four Television Corporation and the
British Film Institute
2014年/イギリス・アイルランド合作/英語/95分/カラー/スコープサイズ/原題:FRANK
Text : Mutsuo Sato