パタゴニアは風が強くて冷たい。本作を観ると、「パタゴニア」というアウトドアメーカーが生まれた意味をしみじみと思い知る。
本作は、フリークライミングの世界チャンピオンであるデヴィッド・ラマ(本人、父親はチベット人シェルパで、母親はオーストリア人)が、世界で一番登頂が困難といわれる南米パタゴニアの花崗岩の山「セロトーレ」にチャレンジ。ラマとそのパートナーのペーター・オルトナー(本人)がその山へ登頂するさまを3年間にわたって記録したドキュメンタリーだ。伝説のクライマー、ジム・ブリッドウェル(本人)らも出演。ヘリコプターを使って空撮された絶景も見どころになる。あまり見慣れないパタゴニアの絶景が目の前に広がるわけだ(いまは絶景の本がブームらしい)。
クライマーといえば、「そこに山があるから」という登山家ジョージ・マロリーの言葉が有名だが、峻厳なセロトーレ(スペイン語で“セロ”は「ゼロ」、“トーレ”は「塔」という意味、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の未公開作『彼方へ』の舞台でもある)へ果敢に挑戦をする姿は本当に切り立った“塔”という印象だ。この壁を人力だけで登ろうとは、およそ人間業とは思えない。観るからに、本当に本当に怖いのだ。なにしろ、山の壁はほぼ垂直に切り立っているというのに、ロープなど必要最低限の道具以外は自らの肉体だけを頼みに、前人未到の領域に踏み込んでいくのだから。
しかし、本作を見ているとフリークライミングという競技がベラボーにカッコいいことを感じる。走る・跳ぶ・登るといった移動動作で、効率的に目的地に移動することが目的の、フランスで発祥したスポーツ「パルクール」と並んで、本当に「神業」としか思えないほどだ。人間の身体をとことんフルに使った競技だと思う。それだけに、ラマたちが己の身体だけを信じて−−登山をするしないの最終的な決断は「己の心ひとつ」らしい−− 垂直に切り立った壁を登頂する姿は見るものの感情を鷲掴みにし、差し迫った困難を彼らが乗り越えた瞬間には達成感すら感じるのだ。
また、初の登頂はすぐに変化する山の不安定な天候に阻まれ、下山せざるをえなくなる。こういう厳しさも、山のおもしろさなのかもしれない。
『クライマー パタゴニアの彼方へ』
8月30日より新宿ピカデリー他全国ロードショー!
Ⓒ 2013 Red Bull Media House GmbH
【監督】トーマス・ディルンホーファー
【出演】デヴィッド・ラマ、ペーター・オルトナー、トーニ・ポーンホルツァー、ジム・ブリッドウェル
2013年/ドイツ=オーストリア/103分/シネマスコープ/デジタル/原題:Cerro Torre
Text : Mutsuo Sato