『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のマット・デイモンとガス・ヴァン・サント監督が再タッグを組んだ新作『プロミスト・ランド』は、原子力発電の代替手段としても注目されるシェールガスについて描いた社会派ドラマだ。そこはガス・ヴァン・サント作品、じっくり観ると、ジワーッと感動に沁みるように出来ている。
ここでいうシェールガスとは、地底深くにあるシェール層からガスを取得すること。しかし、ここでひとつ問題がある。マット・デイモン演じる主人公スティーブが推進する採掘法である水圧破砕法では、地下深くに大量の水を送り込み、割れ目を入れガスを採取する。これで取得できるガスは発電コストも控えられ、安全規制に関心が高い現在では将来性が高い電源ともいえる反面、大量の水を使用するため、人体や環境にもたらす悪影響があるともされている。この点については劇中でしっかり描かれており、その結果、本作品はエネルギー業界からの抗議を受けているほどだ。だが、この問題提起をするバランス感覚がすばらしい。
脚本は、ガス・ヴァン・サント監督と出演している俳優のジョン・クラシンスキー(現在、女優のエミリー・ブラントの夫である)。ガス・ヴァン・サント監督らしく、観客に問いかける結末であり、観る人により、感動の大きさは無限大になる。
ガス会社のセールスマンであるスティーブ・バトラー(マット・デイモン)は、同僚のスー(フランシス・マクドーマンド)ともに、経済危機にあるペンシルバニアの田舎町に赴く。彼は会社のマニュアルに従い、高級スーツを脱いで、ワークシャツやジーンズに着替え、天然ガスのドリル作業を開始するために農場を安く買収するのが目的だ。しかし地元住民への説明会の席で、元化学者の学校教師(ハル・ホルブルック)や環境保護団体のダスティン(ジョン・クラシンスキー)がガス採掘の危険性を指摘。スティーブの買収計画は暗礁に乗り上げる。
もちろん、彼は自身が経済破綻した田舎の出身で、天然ガス事業がその田舎町の経済を潤すことを確信して、その土地を助けたいという思いがある。ところが、反対派の出現もあり、地元住民が誘致するかどうかの判断を、3週間後の住民投票で決めることにする。映画は、この期間のスティーブの大いなる葛藤を描くわけだ。
さらに、地元の女性教師アリス(ローズマリー・デウィット)との出会いもあり、その関係も描かれる。ピュアな映像や音楽が美しく、とても見やすい。
この映画がたまらなく好きなのは、地元ファッションに身を包み、このヒューマンドラマに同化しているマット・デイモンだ。ジェイソン・ボーンのようなアクション映画よりも、こうしたヒューマンドラマのほうが実にさまになっている。やはり『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でスターになった人だけある。
惜しむらくは、主人公スティーブの環境問題への言及の仕方。ガス採掘でどんな環境汚染が起こるのか明示されていないことだ。それがあれば、もっとメッセージ性も強まり、最高だっただけに、少し残念ではある。
映画『プロミスト・ランド』予告編
公式ホームベージ http://www.promised-land.jp/ 8月22日公開
Text : Mutsuo Sato