ジョニー・デップにインタビューしたことがある。彼に古今東西の映画から好きなキャラクターを選んでもらったのだ。答えは、『ゴッドファーザー』(1972)のアル・パチーノが演じたマイクル・コルレオーネと『ウィズネイルと僕』(1987) のリチャード・E・グラント演じるウィズネイルだった。
1987年製作の『ウィズネイルと僕』は、ブルース・ロビンソン監督作品である。イギリスやアメリカではカルト的人気を誇るものの、日本では1991年に吉祥寺バウスシアターで限定的に上映されたのみで、ビデオやDVDも未発売となっていた本作が、製作から27年、日本初公開から23年の時を経てスクリーンに甦る。吉祥寺バウスシアタークロージング作品とのことらしい。
この映画は、カルト的な人気の作品ということで映画ファンの間で有名だ。米国のファッション誌「Vanity Fair」が2012年選んだ「ファッショナブルな映画ベスト25」(順不同)、英国の映画雑誌「Empire」が2012年選んだ「最高におもしろいコメディ映画のベスト50」の24位、英国の映画雑誌「Total Film」が2011年選んだ「映画史に残る酔っぱらい50人」の15位(リチャード・E・グラント)にランクインしているのだ。
おもしろいのは、リチャード・E・グラントが演じるウィズネイルというキャラクターがともかくオシャレで、性的嗜好がゲイであることだ。ジョニー・デップは生まれ変わったら、このウィズネイルを演じてみたいとも言った。ゲイの男性である。彼は『ラム・ダイアリー』(2011)で、半ば監督業を引退していたブルース・ロビンソンに監督させるほど、彼に入れあげていたわけだ。
話は主人公の“僕”とウィズネイルの2人劇である。1969年、スウィングギング・ロンドンの末期。売れない俳優の2人、ウィズネイル(中央 リチャード・E・グラント)と僕(左 ポール・マッガン)は、ロンドンのカムデンタウンに住んでいる。酒とドラッグに溺れる貧乏な毎日に嫌気がさした僕は「こんなんじゃダメだ!」と思い、ウィズネイルの叔父モンティ(故リチャード・グリフィス)が持っている田舎のコテージで素敵な休日を送って気分転換を図ろうとするのだが……。
ブルース・ロビンソン監督自身による脚本は、彼の半自伝的な要素をたぶんに含んでおり、ロビンソンが生きた1960年代終わりの雰囲気が濃密に描かれている。登場するキャラクターは、すべて実在の人物がベースなのだ。
1969年に置いてけぼりにされた“僕”はまさしくロビンソン自身であり。その“僕”がモンティ叔父さんに襲われる場面のセリフなどは、実際にロビンソン監督が、イタリア人映画監督フランコ・ゼフィレッリに襲われかけた時のセリフがそのまま使われている。
そして誰もいない公園で、オオカミの檻の前で語られるシェイクスピアの『ハムレット』の独白。劇場に見立ててれば万雷の拍手といくところだが、そこへ雨が降る。どうしようもなく、空しい。これこそが、この映画が持つ人生の真理である。またこの2人が、愛おしくてたまらないのだ。どうしようもない親友がいて、どうしようもない日々を無為にすごしている。
最後にこの映画のプロデューサーを記しておきたい。元ザ・ビートルズのギタリスト、故ジョージ・ハリスンだ。ついでにいうなら、スペシャル・プロダクション・コンサルタントとして「リチャード・スターキーM.B.E」としてザ・ビートルズのドラマー、リンゴ・スターがクレジットされている。マドンナやショーン・ペン主演の『上海サプライズ』(1986)のプロデューサーとして知られる彼は、『アメリカン・ハッスル』(2013)にも楽曲を提供したエレクトリック・ライト・オーケストラのジェフ・リンとも強力なコラボを築いた。また、英国のコメディ集団“モンティ・パイソン”の強力なパトロンでもあり、ジョージ・ハリスンが作った「ハンドメイド・フィルムズ」という製作会社は“モンティ・パイソン”のために作った映画製作会社で、本作もその一本なのだ。
本編でも使われるザ・ビートルズの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィーブス」、ジミ・ヘッドリックスの「ウォッチタワー(見張塔からずっと)」「ヴードゥー・チャイル」といった楽曲たちが醸しだす1969年の雰囲気も、この映画の見所のひとつだ。
『ウィズネイルと僕』
5月3日〜5月31日(土)、吉祥寺バウスシアターにてクロージング上映中
配給:ハンドメイド・フィルム
監督・脚本:ブルース・ロビンソン
音楽:デイヴィッド・ダンダス、リック・ウェントワース
出演:リチャード・E・グラント、ポール・マクガン、リチャード・グリフィス、ラルフ・ブラウンほか
公式サイト:http://w-and-i.com/
Text : Mutsuo Sato
(C)1987 Handmade Films