デザイナーの石川俊介です。昨年の夏ですが、播州織の工場を訪問してきました。兵庫県の西脇市とその周辺に展開する、日本最大の先染綿織物の産地。MARKAWAREでもここで作られる生地で洋服を作っています。例えばオックスフォードのシャツがそう。白とブルー、どちらも西脇の生地を使用しています。
MARKAWAREの服作りでは、国内生産を重視しています。現在、大部分の洋服作りが海外生産にシフトしていますが、じゃあ我々もコスト削減のために海外で洋服を作りましょう、とはならないんですね。細部にこだわりながら洋服を作るには工場との密なディスカッションと高い技術力が不可欠ですが、最終的な作り手の人達と日本語で微妙なニュアンスを伝えながら会話ができないと、いい物作りが困難になってしまいますからね。
また、日本の高い技術をもつ優秀な人材が職を失い、織り物、染色などの工場が続々と廃業をやむなくされているという現状も見逃せません。日本には世界でトップクラスの生地産地があり、そこには優秀な職人さんたちがいます。
みなさんすごく真面目に、厳しい環境のなかで素晴らしい仕事をしてくださっています。例えば生地を染色する工場はお湯を使うので非常に高湿ですが、真夏の暑さのなかで冷房もつけず、立ちっ放しで重い生地をあちらにこちらにと運びながら作業をしています。しかし、染工場自体が不景気のあおりをうけて続々と閉工に追い込まれています。これから新しく工場が立ち上がるということは難しいんです。設備投資に莫大なコストがかかってしまいますから。
こうした憂慮すべき現状のなかで日本のものづくりを守るためにも、日本で真面目に仕事をしている工場にきちんとお願いしていき、次世代に技術が継承されていくようにしたい。その流れが途絶えてしまうと、もう日本の洋服作りがダメになってしまう。現状は、かなり危険なところまで来ているんです。
さて、前置きがすっかり長くなってしまいましたが、そろそろ本題の工場訪問記に入ろうと思います。
今回は3つの工場を見学させていただきました。ひとつは染色の工場、そしてもうひとつは機(はた)織りの工場、それから仕上げ加工を行う工場です。順番にご紹介しますね。
まず、染工場。染色にも4種類あり、一番原始的な方法が枷染めというもの。糸の束を漬けて染めていく方法が枷染めなんですね(写真はテスト用のものです)。
次に、デニムを染めるときに主に使われる手法がロープ染色と言われているもので、糸の状態のものを長いロープにして連続的に漬けて染めていくもの。そして、3番目の染め方と4番目の染め方というのをここではやっていて、それがチーズ染色とビーム染色なんです。
まずチーズ染色では、円筒形に糸を巻き取り直径25~30cmくらいの形にしたものをつくります。チーズのように見えるこの塊を染色釜にいれて染めていく。いま主流のやり方ですね。蒸気と熱をかけて色を入れていくんですが、チーズの芯には穴が空いていて、そこからも染料がしみ出して外側と内側から染めていくことができるわけです。
それから、もうひとつのビーム染色では織機の経糸(たていと)として巻き取られているものをそのままどーんと機械にセットする。ビーム=織機の経糸なのでビーム染色と言われています。
Photo: Shunsuke Ishikawa
Text: Tsuzumi Aoyama