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PARKING
衣・食・住・遊のすべてにこだわりを持つ男性のための新しい生き方を模索する、Lifestyle Magazine型のショップ。
洋服のほか男性の生活全般に渡って必要な道具や消耗品をそろえ、「自然と街を結ぶトランスポーター」である自動車も重要なエッセンスとして機能。
PARKING MAGAZINE
今とこれからの男性の生き方を模索するウェブマガジン。働くこと、遊ぶこと、生活することを三位一体とし、「グローバル|ローカル」, 「都市|自然」, 「消費|創造」といった様々な隔たりを軽やかに飛び越えていく、自由で活動的でDIY精神豊かな男性像を模索していくウェブマガジンです。
PARKING COFFEE×CACAO WORKS
数社のロースターと契約し、セレクトしたスペシャリティーコーヒーを提供。
産地から直送されるカカオ豆を自家焙煎し、カカオと砂糖のみを用いた特別製法のチョコレートを販売。
コーヒーとチョコレートで朝の目覚まし、軽いランチ、午後の気分転換、夕方の一休みなどの時間と空間を提供します。

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  • PARKING
    ADDRESS: Watanabe bldg.1F
    1-3-8 Nakameguro, Meguro-ku
    Tokyo, JAPAN 153-0061
    153-0061 東京都目黒区中目黒 1-3-8
    渡辺ビル 1F
    TEL: 03-6412-8217
    EMAIL: info@parkingmag.jp
    STORE HOURS:
    12:00 - 20:00
    WEDNESDAY CLOSED

    PARKING

  • PARKING COFFEE X CACAO WORKS
    ADDRESS: Field Stone 1F
    1-10-5 Kamimeguro, Meguro-Ku
    Tokyo, JAPAN 153-0051
    153-0051 東京都目黒区上目黒 1-10-5
    フィールドストーン1F
    TEL: 03-6427-0806
    EMAIL: info@parkingmag.jp
    STORE HOURS: 9:00 - 19:00
    (Irregular Holidays)

    PARKING COFFEE X CACAO WORKS

  • Existence Co., Ltd.
    ADDRESS:
    1-1-45 Nakameguro, Meguro-ku
    Tokyo, JAPAN 150-0061
    153-0061 東京都目黒区中目黒 1-1-45
    TEL: 03-6412-8637

    Existence Co., Ltd.

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2014.03.20
Movie Review Nº10 ”Men At Lunch”

1920年代から1930年代にかけて、ニューヨーク・マンハッタンの高層ビルは上へ上へと伸び、摩天楼を形成した。まさにニューヨークの繁栄の象徴である。そして、この写真は、摩天楼のど真ん中であるロックフェラーセンタービルの69階部分、高さ約250メートルにあたるビルの梁の鉄骨で作業員たち11名がランチ休憩しているものだ。

落ちれば即死。彼らは命綱も着けずに足をブラブラ投げ出し、リラックスした表情で談笑している。その労働者たちの姿には、思わず目が釘付けになる(ちなみに筆者は、ビル2,3階程度の高さの歩道橋でも足がすくむほど極度の高所恐怖症であるから、これは圧倒的に怖い、怖すぎる)。

写真史上に残る、この有名な作業員たちの写真は、舌を出したアインシュタインのポートレイトと並び、フォトエージェンシー、コービス(Corbis) の作品の中でも群を抜いて人気がある写真だという。にもかかわらず、写真の詳細については長い間謎に包まれていた。撮影者は誰なのか? いつどこで撮られたのか? 合成写真ではないのか? そして写っている彼らは何者なのか? 映画『空中ランチ』(原題:Men At Lunch)は、この写真が撮影された背景を追うプロセスを描く、傑作ドキュメンタリー作品である。

冒頭の写真は、1932年10月2日付けの「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」紙に掲載されたものと明らかになる。当時大恐慌に揺れていたニューヨークでは、人々は職業と安定した生活を失い、明日をも知れぬ貧しい生活に甘んじていた。その様子は、チャールズ・チャップリンの名画『モダン・タイムズ』でも描かれている。

昼寝

命綱を着けずに鉄骨に腰かけて笑う(あまつさえ昼寝までしてのけるのだ!)労働者の姿は、死と隣り合わせという不安定さの中にあって、職業が得られるだけで幸運だった彼らの空気感を象徴している。その一方で、毎年工事にかかる犠牲者の数も想定内のものとしてカウントされていたという事実は、それだけ危険な仕事であったことを浮き彫りにする。

ちょうど1931年に竣工していた、映画『キング・コング』で有名になったエンパイヤステートビルは、マンハッタンの景観を一挙に形成した。その最上階は102階。まさに超高層ビルである。

 sub

これらの摩天楼を建てたのはアイルランド系、イタリア系、フィンランド系などの移民労働者だ。第一次大戦後、一攫千金とアメリカンドリームを夢見て、世界中から移民が殺到した。1930年代がピークで、その数は1,700万人とも1,900万人ともいわれる。

名作映画『ゴッドファーザー PARTII』の冒頭では、自由の女神像を横目に見ながらシシリー系の移民、ヴィトー・アンドリー二(のちのコルレオーネ)が入国管理局のあったエリス島に入国、アメリカに来る。このように当時は全員が「エリス島」を通って、ニューヨーク市へ入ったのだ。移民流入の象徴的な存在であったエリス島は1892年から1954年に入国管理局としての役目を終え、現在は「移民博物館」になっている。マンハッタンの南端、バッテリーパークからフェリーが出ていて(自由の女神像があるリバティ島の次の停泊地である)、筆者はニューヨークに行くたびに訪れている。1階のエントランスにあるのはおびただしい鞄の山。その鞄にはそれぞれ黒いマジックで入国地が記されている。アメリカ移民たちがアメリカへ持ってきた遺品だ。『シンドラーのリスト』でも観たことがある情景。何か必要に迫られて人生を鞄に詰めたことがない筆者は、その膨大な“人生”の羅列を前に唖然とするしかない。

移民博物館の2階以上は各国のブースになっており、各国からの移民がアメリカに何を持ち込んだのかが展示されている。たしか日本の代表は熊本県の菊池さん家族で、いろんな日本的なるものに混じって民族楽器である三味線があった。世界各国のブースをそれぞれ覗くと、各国の人々がそれぞれの国の楽器を持ち込んでいるのがわかる。アメリカの音楽の礎のひとつがここにあるというわけだ。

閑話休題。話を『空中ランチ』に戻そう。映画では、写真に映っている作業員がどういう人物であるかという部分に光が当てられている。その調査は2000年ごろから進められたが、難航。写真の両端にいる2人がアイルランド系移民であるというところまでしか判明しなかった。

再び少しだけ時代背景を説明すると、1849年にアイルランド全域を襲った大飢饉は凄惨を極めた。生活が立ちゆかなくなった農民は大挙して国外へ逃れ、アイルランドの人口は850万人から420万人へと激減した。彼らアイルランド人を受け入れたのがアメリカ合衆国である。アイルランド系の移民たちのなかには警察官や消防士といった職業に就く者も多かった。公式なセレモニーでバグパイプの演奏があるのもそのせいだ。19世紀後半にかけて、アイルランド系移民はアメリカへ流入する移民のかなりの割合を占めるようになった。彼らの子孫は現在でもアメリカ国内に居住しており、その子孫は4,000万人以上といわれる。ジョン・F・ケネディをはじめとしてセレブの中にも多数のアイルランド系移民の子孫が存在する。しかし、大多数の移民たちは低賃金の単純労働で生計をたてるほかなかったのだ。

結局、くだんの写真が撮影されたのは1932年9月20日だとわかる。そして当時もっとも低賃金な単純労働は、死と隣合わせの建築現場での「危険な仕事」であった。ニューヨークの繁栄の象徴ともいえるこの写真に彼らアイルランド系移民が映っていたことを、我々はどう考えたらよいのだろうか。

工事現場

彼らは1,900万人分の1、あるいは1,700万人分の1にあたる名もない無名氏である。この映画は、たった1枚の写真の真実を解き明かす。そうした無名氏たちの貧困や苦悩や努力の歴史をひもといていくスリリングな楽しさがある。人種のるつぼといわれるアメリカの、まさしくそれこそが正真正銘の歴史である。

街 

 

 

 

『空中ランチ』
渋谷UPLINK FACTORYにて、以下のスケジュールで上映中。

4/11(金) 19:30
4/17(木) 19:30
4/21(月) 19:30
5/2(金) 19:30
5/9(金) 19:30
5/15(木) 19:30
5/23(金) 19:30
5/28(水) 19:30
6/1(日) 時間未定

http://www.uplink.co.jp/movie/2014/22279

 

Text : Mutsuo Sato