千年の歴史を誇る永遠の都、京都。でも実際に京都を訪れても、見ることのできない美の真髄があります。今東京で開かれている「京都展」はそんな、秘密の京都を満載した展覧会です。
重文 「洛中洛外図屏風 舟木本」(部分) 岩佐又兵衛筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
会場にまず登場するのは今から約400年前の京都の姿。「洛中洛外図」に描かれた、華やかな都の様子です。都の市中(洛中)と近郊(洛外)を高所から見下ろす視点で描写した「洛中洛外図」は室町時代から江戸時代にかけて数多く描かれ、現存するものは100を超えるとも言われています。中でも岩佐又兵衛が描いた「舟木本」と呼ばれる屏風のみごとさには目を奪われます。豊臣秀吉が建てた方広寺大仏殿と徳川家康が建造した二条城をランドマークに、もとは僧の住むところだったが僧が蹴鞠や囲碁の相手をする娯楽施設と化した「坊舎」、人形浄瑠璃の小屋、魚を焼く匂いで客を引く飯屋、花見で飲み過ぎた酔っ払い、さまざまな人間くさい風俗が描かれます。左隻の右上、ひときわ目立つ大きな風船のようなものは、祇園祭に使われた「母衣(ほろ)」と呼ばれる仮装。本来は戦場で矢を防ぐものでしたが、ここでは派手な祭りの飾りになっています。さまざまなシーンのあいまをつなぐ金の雲は空間のゆがみを調整する役割も。このあでやかな洛中洛外図を見て権力者はそこを支配する自らの地位に酔い、庶民は都への憧れを抱いたことでしょう。
そこに描かれた京都御所や龍安寺、二条城など、権力者たちが過ごし、彼らが通った空間のインテリアを飾った絵画もまたすばらしいもの。この展覧会には長い時を経て今に伝わる貴重な作品が並びます。狩野永徳が描いた「群仙図襖」は御所を飾った障壁画としては現存最古のもののうちの一つ。仙人たちは長生し、不死である理想の存在として描かれています。この襖は主従関係にあるものたちが対面する儀礼の場「対面所」に飾られていました。アメリカ・メトロポリタン美術館から里帰りした「列子図襖」には風を自由に操ることのできる仙人「列子」が描かれています。風をはらむ仙人の衣の軽やかさとごつごつした岩の描写が不思議な調和を見せる襖絵です。
重文 「群仙図襖」 狩野永徳筆 安土桃山時代・天正14年(1586) 南禅寺蔵
圧巻は二条城の障壁画を、御殿での空間にできるだけ忠実に再現した展示室。二条城は豊臣家にかわり徳川家が天下を治めるのだ、ということを声高く宣言する、その象徴として建てられました。この展覧会では二条城の江戸時代初期の建造物のうち唯一残された二の丸御殿の障壁画が展示されています。高い天井近くまで飾られた障壁画は武家の誇りを感じさせます。狩野探幽ら、狩野派の絵師たちが腕を振るった画面には眼光鋭い鷲や鷹、今を盛りと咲き誇り、散り際もみごとな桜花には勇壮な武士の美意識が現れていますが、安定した構図に堂々たる風格が感じられます。
重文 二条城 二の丸御殿 大広間 四の間障壁画(西側)「松鷹図」 狩野探幽筆 江戸時代・寛永3年(1626) 京都市(元離宮二条城事務所)蔵 撮影:福永一夫
重文 二条城 二の丸御殿 黒書院 二の間障壁画(南側)「桜花図」 狩野尚信筆 江戸時代・寛永3年(1626) 京都市(元離宮二条城事務所)蔵
この展覧会のみどころは作品も展示もスケールが大きいこと。幅3メートル以上の屏風や、見上げるばかりの高さまで飾られた障壁画で、わび、さびや細やかなものを愛でる女性的な感性とは少し違う、あでやかでダイナミックな日本の美意識に触れられます。和の美の奥深さを味わうことができるでしょう。
特別展「京都−洛中洛外図と障壁画の美」は12月1日まで東京国立博物館・平成館で開催されています。
重文 「洛中洛外図屏風 歴博甲本」(部分) 室町時代・16世紀 国立歴史民俗博物館蔵 展示期間:11/6(水)-12/1(日)
「列子図襖」 江戸時代・17世紀 メトロポリタン美術館蔵 ©The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY
二条城二の丸御殿 大広間 四の間障壁画(南より北側を望む) 撮影:福永一夫
Text : Naoko Aono