アメリカの野球界では、MLBはもとより、マイナーリーグ、独立リーグ、そしてアマチュアに至る全球団まで、42番が永久欠番になっている。
42番とは、ジャック・ルーズベルト・ロビンソン選手。そう、ジャッキー・ロビンソン内野手 (1919年1月31日 – 1972年10月24日) の背番号なのだ。彼が記念すべきメジャーに上がった日、4月15日の通称”ジャッキー・ロビンソン・デー”ともなれば、選手、監督、コーチ全員が42番のユニフォームを着る球団もある。
彼のメジャーデビュー50周年にあたる1997年にこの永久欠番制度が制定された。しかし、今年度で引退したニューヨーク・ヤンキースのクローザー、マリアノ・リベラ選手は制定前から42番をつけていたために特例として認められてた。文字どおり最後の42番になったわけだ。
『42~世界を変えた男~』(原題: 42) は、黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの伝記映画だ。
1945年、ブルックリン・ドジャースの会長ブランチ・リッキー (ハリソン・フォード)は、ニグロリーグで活躍中の黒人選手ジャッキー・ロビンソン (チャドウィック・ボーズマン)と電撃的に契約し、下部組織3Aのモントリオール・ロイヤルズに入団させる。当時は人種差別が激しく、有色人種のメジャーリーガーはいなかったため、彼は他球団の選手、コーチはもちろん、チームメイトやファンからも差別を受ける。そんな逆風の中、ロビンソンは1947年4月15日 (後にこの日がジャッキー・ロビンソン・デーとなる)、ドジャースの本拠地エベッツフィールドに立つ……。
ロビンソンがメジャーリーガーになった翌年、ブルックリン・ドジャースはもうひとりの黒人、ロイ・キャンパネラを入団させる。ロビンソンの実働は10年間だったが、その間、ナショナルリーグ優勝6回、2位3回の常勝軍団を作り上げる。
だが、『L. A. コンフィデンシャル』『ミスティック・リバー』の見事な脚色で知られる監督・脚本のブライアン・ヘルゲランドは、ロビンソンの激動の半生をだらだらと描くのではなく、ロビンソンがリッキーと出会ってからメジャーリーガーになるまでのわずか3シーズン (実質2年間) に焦点を当てて、本作の脚本を見事に構成した。この歴史的偉業の裏にあるさまざまな立場の人間の思いをすくい取り、伝説の「産みの苦しみ」を観る者に共有させる脚本がすばらしい。
新人俳優であるチャドウィック・ボーズマンはホームランに盗塁に (初年度、590打数175安打、打率.297、打点48、本塁打12、盗塁28、犠打29、長打率+出塁率.810という新人王に匹敵する好成績だった)、脅威の身体能力を見せつける。その躍動感が半端ないのだ。血気盛んでありながら沈着冷静なロビンソンを好演している。
一方、ベテランのフォードはやさしく大らかな眼差しで主人公の成長を見つめる。そんな2人が新しいメジャーリーグの在り方を開拓するために、差別を乗り越えながら前進する姿に胸が熱くなる。ジャッキー・ロビンソンでなければ、黒人第1号は務まらなかったはずなのである。
リアルなベースボール・シーン、1940年代のブルックリンの風俗、完璧な時代考証がなされた衣装に至るまで、作り手の情熱が惜しみなく注がれたベースボール映画の新たな傑作だ。
『42~世界を変えた男~』11月1日から公開
http://wwws.warnerbros.co.jp/42movie/
Text : Mutsuo Sato