ジルヴィナス・ケンピナス 《ビヨンド・ザ・ファンズ》 2013年
宇宙が膨張し続けているのは反重力が働いているから。ドラえもんのタケコプターや「スタートレック」に登場する空中都市も反重力が使われているそう。といっても反重力の存在は科学的に証明されているわけではなく、おもにSFの中にしか登場しない架空の力です。豊田市美術館で9月14日から開かれる「反重力」展は、アーティストやキュレーターが想像力を膨らませ、この見えない力をアートにしたもの。SFの中では宇宙飛行やテレポーテーションも可能にするというこの力にまつわるアートとは?
空中に浮かんだまま、回転を続ける磁気テープはリトアニア出身のジルヴィナス・ケンピナスの作品。カーステン・ヘラーの「ネオン・エレベーター」の前に立って明滅する光を見ていると、自分自身が光の中を上昇していくような気分に襲われます。ケンピナスの磁気テープは扇風機の風にあおられているだけで、ヘラーの作品は人の目の錯覚を応用したもの。決して反重力を使っているわけではないのですが、そんな力があってもおかしくないかも、という気分になってきます。コンピュータ・プログラムによる映像・音響インスタレーションを展開している平川紀道は、人間には知覚できないとされる“並行世界”を暗示する作品を見せます。奥村雄樹の「多元宇宙の缶詰」は、1963年に赤瀬川原平が作った「宇宙の缶詰」をヒントにしたもの。缶詰のラベルを内側に貼って“宇宙全体を梱包した”と考えた赤瀬川の作品を、ワークショップで作り直してみるという試みです。世界の果てや内と外との関係について、逆転の発想からいろいろなことを考えさせてくれます。
カーステン・ヘラー 《ネオン・エレベーター》 2005年 豊田市美術館蔵
平川紀道《 i r r e v e r s i b l e 》 2011年
水平・垂直の細身のラインが美しい美術館の建物は谷口吉生の設計。ここには広さ300平方メートル、高さ9.6メートルという大空間の展示室があります。この空間に作品を設置するのは、小さな人の形をしたオブジェや、見えないほどのビーズや糸を使った繊細なアートを作っている内藤礼。ささやかなもので空間を満たしていく彼女はどんなインスタレーションを見せてくれるのでしょうか。
内藤礼 《ひと》2011-12年 photo:Rei Naito, courtesy:Gallery Koyanagi
美術館の2階にある大池には中谷芙二子が「霧の彫刻」を出現させます。ほんのわずかな温度の差や風で刻々と変化する彫刻を中谷は「生きた彫刻」と呼びます。自然と建築とが出合うその境界線をあいまいにしていく霧が、今まで感じたことのない浮遊感を味合わせてくれるでしょう。
中谷芙二子 《LivingChasm–CockatooIsland》2012年 第18 回シドニービエンナーレでの展示風景、 courtesy: the artist, photo: Prudence Upton
「反重力 浮遊 | 時空旅行 | パラレル・ワールド」展は9月14日から12月24日まで(月曜休館、休日は開館)、豊田市美術館で開催されます。
http://www.museum.toyota.aichi.jp
Text : Naoko Aono