今週末、MARKAWARE2015年春夏シーズンのアウターが続々と入荷いたします。
三日連続の最終回、本日は個人的に最も気に入っているコートをご紹介いたします。
シンプルで上質で機能性も備えたコートが作りたくて作ったこのコート、その特徴の一つは素材にあります。表地に使用しているのは英国「VENTILE FABRICS」社のL24という生地です。この素材の歴史からお話します。
第二次世界大戦中に英国ロイヤルエアーフォースのパイロットは商業船の甲板からガタパルト発射されるハリケーン戦闘機での護衛任務につかなければなりませんでした。しかし空母ではない船から飛び立った戦闘機には着陸できるところが無く、海に不時着するしかありませんでした。パイロット達は発信器をつけいてたので不時着した場所を特定することはできたのですが、海があまりに冷たかったため、発見前に死亡してしまうケースが非常に多かったということです。当時のフライトスーツでは着水してから数分間しか命がもちませんでした。
そこで、必要とされたのがパイロットを暖かくてドライに保つことができる素材でした。合成繊維が量産される前の時代ですのでコットンを使用して耐水性がある素材の開発が進みました。研究の後、英国マンチェスターのシアリーインスティテュートが開発した素材が「VENTILE」です。この素材は天然素材としては最高レベルの耐水圧で海の中での生存時間をそれまでの数分から20分にまで伸ばし、救出作業が可能になりました。約80%のパイロットが海に落ちても生還できるようになったということです。
1943年に大量生産がスタートしたヴェンタイルは現在でも英国軍やNATO軍に使用されている他、消防、アウトドア、医療の分野などでも活用されています。
英国の綿織物にはトレンチコートなどに使用されるコットンギャバジンやハンティングジャケットのオイルドクロスなど優れたアウター用のものが多くありますが、このヴェンタイルもその代表的な素材です。高い撥水性と対水圧をもち(もちろん3レイヤーの合成繊維にはかないませんが …)、同時に天然素材がもつ透湿性、良好な肌触り、風合いの良さなどを同時に持っています(こちらは天然素材の勝ちです!)。特にヴェンタイルの高密度なテクスチャーは高級感を持っていて、製品にした時に映えます(日本でライセンス生産されているヴェンタイルがあるのですが、ここの部分+色でどうしても大きな違いが出てしまい、価格が何倍もする英国製を使ってしまいます)。
形はダブルとシングルの中間くらいの打ち合わせにして、ボタン位置をオフセットしたコートです。大型のハンドウォーマーポケットのみでアクセントを加えたシンプルな形。MARKAWAREのこれまでのコートと比べると横方向のサイズ感をたっぷりととり(サイズ2でバスト寸120cm)、肩幅もドロップするよう型傾斜を調整しながら大きくしています。今の時期ですとジャケットやローゲージのニットの上からでもゆとりを持って着られるサイズ感です。また春になってインナーが薄くなってくると、さらにリラックスしたシルエットを楽しめます。ボトムスのシルエットの自由度も非常に高い着回しのきく形です。
縫製は昨日ご紹介したトレンチコートと同じ新潟県新発田市のコート工場にお願いしました。接着芯をいっさい使用せず、すべて毛芯と麻芯をふらして使用していますので、素材の持つ風合いをそのまま楽しめます。ステッチもコートとしては非常に細かい運針にしたコバステッチが端正で美しい、いいコートが出来上がりました。
税別78,000円といいプライスのスプリングコートですが、ちゃんと理由があります。見た目から想像するよりも軽く柔らかな着心地を体験してみてください。
TEXT&PHOTO:Shunsuke Ishikawa